善派

善派（ぜんぱ）

善派は、鎌倉時代に大和国（現在の奈良県）を中心に活躍した仏師の一派です。彼らは、大和に数多く残る天平時代の彫刻を模範としながらも、平安時代の穏やかな作風である定朝様の流れも汲んでいる点が特徴です。一派の名に「善」の字を冠していることからも、その作風の良さがうかがえます。

概要

善派は、西大寺の中興に尽力したことで知られる僧侶、叡尊（えいぞん）と深い関係にありました。叡尊の発願により、善慶（ぜんけい）が清涼寺式釈迦如来像を、善円（ぜんえん）が愛染明王像など、西大寺に安置される数々の仏像を制作しました。特に、肖像彫刻に優れた才能を発揮した善春（ぜんしゅん）は、叡尊自身の像を制作しています。また、唐招提寺に安置されている清涼寺式釈迦如来像も、善派の仏師による作品である可能性が指摘されています。

作風の特徴

善派の作風は、仏師一人ひとりが独自の個性を備えている点が大きな特徴です。画一的な様式に留まらず、それぞれの仏師が独自の表現を追求したため、東大寺再建のような大規模かつ組織的な事業には、その個性的な作風が適していなかったと考えられています。一方で、蓮華王院（三十三間堂）に安置されている諸像の中には、善派の仏師の関与が指摘されているものも存在します。これは、善派の仏師たちが、個性を保ちつつも、特定のテーマや様式に沿った制作にも対応できたことを示唆しています。

善派の仏像は、天平彫刻の力強さと、定朝様の優美さを兼ね備えた、独特の魅力を持っています。鎌倉時代の仏教美術において、独自の地位を確立した一派と言えるでしょう。

参考文献

山本勉『運慶にであう』（小学館、2008年）
山本勉『日本仏像史講義』（平凡社、2015年）

関連項目

善増（ぜんぞう）
慶派（けいは）

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