喜久丸

喜久丸

喜久丸（きくまる）は、日本の音楽史において、特に戦後の一時期に活躍した芸者歌手、そして民謡歌手です。彼女の正確な生没年は明らかになっていません。

経歴

喜久丸は三重県に生まれました。その後、日本の首都である東京へと活動の場を移し、渋谷の地で芸者としてのキャリアをスタートさせます。この芸者時代には、「菊丸」という名で親しまれていました。

その歌声や表現力、そして芸者としての存在感がレコード会社の注目を集め、大手レコード会社であるビクターからのスカウトを受けることになります。このスカウトが、彼女の歌手としての道を本格的に開くきっかけとなりました。歌手活動を開始するにあたり、彼女は日本を代表する作曲家であり、数多くのヒット曲を生み出した中山晋平氏、そして中山氏の妻であり、自身も優れた歌手として知られた新橋喜代三氏に師事し、歌唱技術や表現について深く学びました。師事のもと研鑽を積んだ後、芸者時代とは異なる「喜久丸」という名を冠して、プロ歌手としての新たなキャリアをスタートさせました。

活動内容

歌手「喜久丸」としての活動において特筆すべき点は、彼女の楽曲が単独での歌唱よりも、他の著名な歌手との共唱によるものが非常に多かったことです。これは、当時の音楽制作の傾向や、彼女の声が他の歌手とのアンサンブルにおいて魅力を発揮したことを示唆しています。共に歌唱した相手には、市丸や鈴木正夫、波岡惣一郎など、当時の流行歌や民謡界で名の知られた歌手たちがいました。

また、レコード音源だけでなく、メディアへの出演も行っていました。特に、1953年（昭和28年）12月には、NHKの長寿番組である『民謡をたずねて』に出演しています。この出演は、彼女が師事した新橋喜代三氏、そして新橋氏の別の弟子である喜代丸氏との共演という形で行われ、師弟揃って民謡への深い造詣と歌唱力を披露する機会となりました。

代表的な楽曲

喜久丸は、ビクターを中心に、様々な楽曲を発表しています。特に共唱によるものが多く、戦後の日本の大衆音楽や民謡の発展に貢献しました。以下に、国立国会図書館サーチを典拠とした代表的な楽曲の一部を年代順に挙げます。

1948年:
『瑞穂踊り』
市丸、鈴木正夫、波岡惣一郎との共唱。
1950年:
『伊勢音頭(さわぎ)』
市丸との共唱。市丸とはこの他にも多くの楽曲で共唱しています。
『さくら音頭』
市丸、鈴木正夫、波岡惣一郎との共唱。
1951年:
『道頓堀から』
この楽曲は単独歌唱と考えられます。
『十日町小唄』
市丸との共唱。
1954年:
『名古屋ぶし』
中山嘉子との共唱。
1955年:
『刈干切唄』
この楽曲は単独歌唱と考えられます。
1957年:
『岡崎五万石』
この楽曲は単独歌唱と考えられます。
1958年:
『炭坑節』
鈴木正夫との共唱。
1961年:
『山中節』
この楽曲は単独歌唱と考えられます。

これらの楽曲リストからは、喜久丸が民謡を中心に、当時の流行歌なども含めて幅広いジャンルの歌を歌っていたことがうかがえます。特に市丸との共唱が多いことから、彼女たちが当時の音楽シーンにおいて重要な歌のパートナーであったことが推測されます。

生没年が不詳であるため、彼女の活動期間の全体像や晩年については明らかになっていませんが、残された音源やメディア出演の記録から、喜久丸が戦後の日本において、芸者歌手、そして民謡歌手として確かに存在し、その歌声で多くの人々を魅了したことがわかります。彼女の功績は、当時のSP盤やLPレコード、そしてNHKの番組出演といった形で現代に伝えられています。

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