喜和田鉱山

喜和田鉱山：日本のタングステン鉱業史に刻まれた足跡

山口県岩国市二鹿に位置する喜和田鉱山は、日本のタングステン鉱業において重要な役割を担った鉱山として知られています。1669年の発見以来、長い歴史と幾多の変遷を経て、2005年に事実上閉山しました。

発見からタングステン鉱山へ

伝えられるところによると、喜和田鉱山は1669年に発見されました。当初は「ニ鹿鉱山」と呼ばれ、主に銅や鉛の採掘が行われていました。しかし、1909年、それまで廃棄されていたズリの中から大量の灰重石が発見されたことで、状況が一変します。灰重石はタングステンの主要鉱石であり、この発見により喜和田鉱山は日本におけるタングステンの主要産地へと躍進したのです。1911年には株式会社粟村工業所が鉱山を買収し、本格的なタングステン鉱山としての操業が開始されました。最盛期には、年間7,000トンもの粗鉱（タングステンの含有量を含む鉱石）を出荷する規模にまで成長しました。

市況変動と操業の継続

タングステンは、その価格の変動が激しいことで知られています。そのため、日本のタングステン鉱山は、市況の変動に応じて操業と休業を繰り返すことが多くありました。喜和田鉱山も例外ではありませんでしたが、高品位の鉱石に恵まれていたため、比較的長い期間操業を続けることができました。1980年代以降、タングステン価格が下落し、多くのタングステン鉱山が閉山していく中、喜和田鉱山は1982年に株式会社喜和田鉱山として独立し、操業を継続する道を歩みました。

選鉱（鉱石から有用な鉱物を分離する作業）設備を持たなかった喜和田鉱山は、長年京都府の大谷鉱山に選鉱を委託していました。しかし、大谷鉱山が1982年に閉山したため、その後は近隣の玖珂鉱山に委託することになります。ところが、玖珂鉱山が観光坑道「地底王国美川ムーバレー」として転換し、選鉱作業を停止したことで、喜和田鉱山の操業継続は困難となり、1992年に操業を休止せざるを得ない状況に陥りました。

地質と鉱床：高品位鉱石の宝庫

喜和田鉱山周辺の地質は、玖珂層群と白亜紀の花崗岩が主な構成要素です。この地域のタングステン鉱脈は、スカルン型鉱床と石英脈から成り立っています。スカルン型鉱床は、花崗岩から供給された鉱液が、玖珂層群の石灰岩と反応することで生成されたと考えられています。一方、石英脈は鉱液の通り道を充填して生成され、その通り道がスカルン型鉱床と交差する付近にのみ、灰重石を含むという特徴があります。

喜和田鉱山では多くの鉱体が発見・開発されましたが、中でも第11鉱体は特に規模が大きく、幅約50メートル、長さ約120メートル、鉱石換算で約11万トンの埋蔵量があると推定されています。この鉱体のタングステン含有率は平均で8～10％、最大では約50％にも達したとされ、世界でも有数の高品位なタングステン鉱床として知られていました（参考までに、2007年のタングステン市況における採算ラインは含有率約1％と言われています）。発見当初、坑道の様子は紫外線に照らされると神秘的な発光現象が見られ、「地下の天の川」としてマスコミにも紹介されました。

閉山後：歴史の継承

採掘休止後、鉱山長が個人で坑道の維持管理を行っていましたが、2005年2月に坑道は完全に封鎖されました。坑内には約2,000トンの鉱石が残っていましたが、経済産業省の仲介によりレアメタル専門流通業者に買い取られ、2007年6月から10月にかけて搬出されました。

鉱山近くには、鉱山長が運営する「光る石資料館」があり、坑道図や坑道内の灰重石、国内外の様々な鉱石などを展示・販売していました。しかし、鉱石の搬出完了などを機に、2008年8月末に閉鎖されました。同月には資料館の近くに記念碑が建立され、「日本最後のタングステン鉱山」としての歴史が後世に伝えられることとなりました。光る石資料館はその後、京都府亀岡市に移転しましたが、2020年頃に閉館しています。

喜和田鉱山は、その歴史と高品位な鉱石によって、日本の鉱山史に重要な一ページを刻んだ鉱山と言えるでしょう。

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