四人の哲学者

『四人の哲学者』は、フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1611年から1612年にかけて制作した油彩画です。この作品は、ルーベンスが自身の師である哲学者ユストゥス・リプシウスと、その弟子たちを描いた肖像画であり、同時にルーベンス自身の姿も描かれている点が特徴的です。

この絵画は、新ストア派の哲学運動と深く関連しています。描かれているのは、画面左から順に、画家自身であるピーテル・パウル・ルーベンス、その兄であり本作が制作される以前に亡くなったフィリップ・ルーベンス、そして新ストア派の創始者ユストゥス・リプシウス、最後にヨアネス・ウォフェリウスです。リプシウスの肖像は、アブラハム・ヤンセンスの描いたリプシウスの肖像画を参考に描かれたとされています。

背景には壁龕があり、そこにはセネカの胸像が置かれています。しかし、この胸像は実際にはセネカではなく、古代ギリシアの詩人ヘシオドスの想像による肖像であると考えられています。胸像の傍らには、花瓶に生けられた4本のチューリップが描かれています。そのうち2本はすでに開ききっており、これはリプシウスとフィリップの死を象徴していると解釈されています。この絵画は、ルーベンスが兄の死を悼んで描いた『画家の兄フィリップ・ルーベンス』と同様に、兄弟愛と死を悼む気持ちが込められていると考えられます。

また、背景にはローマのパラティーノの遺跡が描かれており、これは古代文化へのオマージュであると同時に、ルーベンスの時代に失われたヘレニズム・ローマ時代の栄光の復活を象徴しているとも考えられます。ルーベンスはこの作品を通じて、哲学と芸術、そして歴史への深い敬意を表しているのです。

この作品は、18世紀末までにピッティ宮殿に移されるまで、様々な場所を転々としました。ナポレオン戦争中には略奪されパリに持ち去られましたが、後にフィレンツェに返還され、現在はパラティーナ美術館に所蔵されています。

『四人の哲学者』は、単なる肖像画の枠を超え、ルーベンスの知性と深い感情、そして当時の文化的背景を反映した傑作と言えるでしょう。


参考文献

『ルーベンス　栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行
Marco Chiarini, Galleria palatina e Appartamenti Reali, Sillabe, Livorno 1998. ISBN 978-88-86392-48-8

外部リンク

Catalogo generale dei Beni Culturaliサイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『四人の哲学者』
Web Gallery of Artサイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『四人の哲学者』

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