四十口径八九式十二糎七高角砲

40口径八九式十二糎七高角砲：日本海軍の対空戦を支えた火器

40口径八九式十二糎七高角砲は、日本海軍が初めて高角砲として設計した兵器です。太平洋戦争において、日本海軍の対空防衛の重要な役割を果たしました。既存の砲を改造したものではなく、最初から対空戦闘を目的として設計された点が大きな特徴です。

開発の背景と設計思想

当時、日本海軍は対空兵器として四十五口径十年式十二糎高角砲を使用していました。しかし、これは既存の12cm砲を改造したもので、性能に限界が見え始めていました。そこで、航空機の性能向上に対応するため、より高性能な高角砲の開発が急務となりました。

八九式高角砲の設計にあたっては、以下の点が重視されました。

高い発射速度: 毎分14発の発射速度を目指しました。これは、当時の航空機の速度と密集度を考慮した結果です。
強力な火力: 既存の12cm高角砲より砲身径を0.7cm大きくし、威力の向上を図りました。
軽量化と迅速な操作性: 砲架の軽量化と俯仰速度の向上により、急降下爆撃への対応力を強化しました。俯仰速度は12度/秒に達しました。
自動信管調整: 信管の自動調整機能により、発射速度の低下を防ぎました。
高速な尾栓閉鎖機構: 横鎖栓式を採用することで、装填時間を短縮しました。この方式は、後の日本海軍の高角砲にも広く採用されています。

1929年から設計が始まり、1931年には試作砲が完成、1932年に制式採用されました。

運用と評価

カタログスペック上は毎分14発の発射速度でしたが、実際の運用では様々な課題が見られました。訓練された熟練の砲員でも毎分12発程度が限界で、実戦ではさらに発射速度が低下しました。また、自動信管の精度にも問題があり、命中率の向上には改善が必要でした。

レイテ沖海戦など、アメリカ軍の激しい航空攻撃に晒された状況下では、八九式高角砲の射程や威力に対する不満は少なくありませんでした。しかし、砲の重量が大きいため高速機への対応が困難であったこと、発射速度が遅く有効な弾幕を形成できなかったことなどが大きな問題点として挙げられています。

一方で、戦争末期に建造された松型駆逐艦では、本砲の電動機出力を増強したものが主砲として採用されました。対空・対水上戦闘の両方に対応できる汎用性が高く評価されています。

各型式と搭載艦

八九式高角砲は、連装および単装砲架の様々な型式が存在し、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦など、日本海軍の主力艦艇の多くに搭載されました。代表的な型式としては、連装砲架のA1型からA4型、B1型、B2型、単装砲架のB1型改4などが挙げられます。これらの型式は搭載艦艇に合わせて、改良が加えられていました。搭載艦艇の例としては、以下の通りです。

戦艦: 金剛型、扶桑型、伊勢型、長門型、大和型
航空母艦: 加賀、龍驤、蒼龍、飛龍、翔鶴型、雲龍型、信濃、瑞鳳型、龍鳳、千歳型、飛鷹型など
巡洋艦: 妙高型、高雄型、最上型、利根型、5500トン型軽巡洋艦など
駆逐艦: 松型、雪風など
その他: 水上機母艦、潜水母艦、練習巡洋艦、敷設艦、輸送艦など

まとめ

40口径八九式十二糎七高角砲は、日本海軍の対空戦闘において重要な役割を果たした高角砲でした。高い発射速度と威力を誇りましたが、信管の精度や発射速度、砲の重量など、改善の余地のある点も存在しました。それでも、多くの艦艇に搭載され、太平洋戦争における日本海軍の防空体制を支えた重要な兵器であったことは間違いありません。その運用状況や評価は、当時の海軍技術水準や戦争の激しさを反映しており、歴史的にも貴重な存在と言えます。

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