四鏡

四鏡（しきょう）とは、平安時代後期から室町時代前期にかけて成立した『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』の4つの歴史物語をまとめた総称です。これらは「鏡物（かがみもの）」と呼ばれ、過去の時代を振り返る形式が特徴となっています。

四鏡の特徴

四鏡は、いずれも「鏡」という名前を持ち、物語の語り口にも共通点があります。非常に高齢の老人が、別の人や作者に対して「昔はこんなことがあった」と回想する形式で物語が進んでいきます。この形式は、最初に成立した『大鏡』が確立し、後の『今鏡』『水鏡』『増鏡』がそれを踏襲しました。

成立順と内容

四鏡の成立順は、『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』の順です。この順番を覚えるための語呂合わせとして「だいこんみずまし」（だい→大鏡、こん→今鏡、みず→水鏡、まし→増鏡）が知られています。しかし、作中で扱われている時代の順に並べると、『水鏡』『大鏡』『今鏡』『増鏡』の順となります。これは、それぞれの物語が焦点を当てる時代が異なるためです。

大鏡: 永祚元年（989年）から万寿2年（1025年）までを記述。
今鏡: 天喜5年（1057年）から保安4年（1123年）までを記述。
水鏡: 神武天皇から仁明天皇の時代までを記述。
増鏡: 承久元年（1219年）から正慶2年（1333年）までを記述。

幻の鏡物『弥世継』

『増鏡』によれば、かつて『弥世継』（いやよつぎ）と呼ばれる「鏡物」が存在したことが記されています。『弥世継』は、『今鏡』以後『増鏡』以前の時代を扱っていたと考えられていますが、残念ながら今日では失われており、その内容を知ることはできません。

四鏡に含まれない鏡物

「四鏡」という枠組みに含まれない鏡物も存在します。例えば、『吾妻鏡（東鑑）』や『後鑑』などが挙げられます。これらの作品も歴史を振り返るという点で鏡物の特徴を備えていますが、四鏡とは異なる系統に属しています。

四鏡の影響

四鏡の形式は、後の文学作品にも影響を与えました。南北朝時代に成立した『梅松論』は、老僧が聞き手と筆記者に語りかけるという形式を取り、鏡物を意識した構成となっています。

四鏡は、歴史を単なる記録としてではなく、物語として語り継ぐという日本独自の歴史文学の形式を確立しました。それぞれの作品が異なる視点から歴史を捉え、後世に貴重な情報と物語を提供しています。

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