弥世継

『弥世継』（いやよつぎ）は、鎌倉時代初期に成立したとされる歴史物語です。高倉天皇と安徳天皇の二代にわたる治世を扱っており、作者は藤原隆信と伝えられています。しかし、残念ながら現代には伝わっておらず、「幻の歴史物語」としてその名を知られています。

この作品が重要視される理由の一つに、「四鏡」と呼ばれる歴史物語群との関連性があります。「四鏡」とは、『水鏡』・『大鏡』・『今鏡』・『増鏡』のことで、時代順に配列されています。『弥世継』は、このうち『今鏡』と『増鏡』の間に位置し、空白となっている年代、すなわち高倉・安徳両天皇の時代を埋める役割を担っていたと考えられています。これらの作品群は「鏡物」と呼ばれ、『弥世継』もその一つに数えられます。

作者とされる藤原隆信の父は、『今鏡』の著者ではないかとされる寂超です。このことから、『弥世継』は『今鏡』の流れを汲む作品であった可能性も指摘されています。また、『今鏡』は別名『続世継』とも呼ばれており、『弥世継』の題名との関連性も興味深い点です。

『弥世継』の存在を示す証拠として、『増鏡』の冒頭部分が挙げられます。『増鏡』は南北朝時代前期（14世紀中頃）に成立したとされており、その冒頭で『増鏡』が『弥世継』の続きであることが明言されています。このことから、少なくともこの時代には『弥世継』が存在し、読まれていたことがわかります。

さらに、江戸時代前期の国学者である多田義俊が著した「十語五草」という婦人の教養書一覧にも、『弥世継』の名前が登場します。この一覧には、「四鏡」や『枕草子』、『徒然草』といった著名な作品と共に『弥世継』が挙げられており、多田義俊が実際に『弥世継』を読んでいた可能性を示唆しています。

しかし、扱っていた時代が比較的短かったこと、そして同時期を扱った『平家物語』のような人気作品が多数存在したことなどが影響し、『弥世継』は次第に忘れ去られていったと考えられます。加えて、その後の戦乱による書物の散逸も、現存しない要因の一つとして挙げられるでしょう。

そのため、『弥世継』は現在ではその内容を知ることができません。しかし、その存在は他の文献から確認でき、「四鏡」を補完する重要な作品であったと考えられています。いつか再び発見され、その全貌が明らかになる日が来ることを願うばかりです。

関連項目

四鏡
平家物語
六代勝事記
月のゆくへ（月の行方） - 荒木田麗女作の歴史物語。高倉・安徳両天皇の治世を記す。

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