固有地震

固有地震とは

固有地震とは、ある特定の断層において、ほぼ同じ間隔と規模で周期的に繰り返し発生する地震のことです。これらの地震は、震源域、規模、さらには地震波形までが類似していることから、「相似地震」とも呼ばれます。地震は地殻内でランダムに発生するという考え方に対して、固有地震は一定の時間的間隔でほぼ同じ場所で発生するという点で、特異な現象として認識されています。

現在、地震学では、マグニチュード6から7を超えるような大地震のほとんどが固有地震であると考えられています。これは、断層の特定の場所に応力が蓄積され、それが定期的に解放されるというメカニズムによるものです。この考え方を「固有地震説」と呼びます。

固有地震の発見

固有地震の有無は、地下の特定の場所での地震活動記録を分析することで確認できます。具体的には、地震モーメントやマグニチュードの積算グラフ（M-T積算グラフ）、地震回数の積算グラフなどを時系列で観察し、グラフに一定の間隔で高まりが見られる場合、その場所で固有地震が発生していると判断できます。固有地震は、主にマグニチュード6から8程度の中・大地震として観測されることが多いですが、マグニチュード4から2程度の小・微小地震でも発見されています。

例えば、岩手県釜石沖では、約5.5年間隔でマグニチュード4.8前後の地震が繰り返し発生していることが確認されています。この地震は、1957年から2008年までの間に10回も発生しており、固有地震の典型的な例として研究されています。

固有地震の発生メカニズム

固有地震は、以下の2つの要因によって発生すると考えられています。

1. 応力の蓄積と解放: 断層（震源域）には、一定のペースで応力が蓄積され、その蓄積された応力が限界に達すると、定期的に解放される（発震する）ためです。
2. 震源域の固定: 固有地震の震源域は、毎回ほぼ同じ領域で発生します。これは、何らかの原因により、毎回同じような領域にアスペリティ（固着域）や遷移領域が形成されるためと考えられています。

近年有力な地震発生モデルである「アスペリティモデル」では、固有地震の震源域となる領域の周囲には、溜まった応力を短い周期ですぐに解放する領域（遷移領域）が存在すると考えられています。遷移領域では、微小地震を繰り返し発生させたり、非地震性のすべりを発生させたりして応力を開放し続けています。一方、これに囲まれた震源域となる領域だけが応力が溜まり続ける領域（固着域＝アスペリティ）となります。アスペリティは、その構造上、強い固着によって簡単には地震を起こさないようになっており、限界に達して初めて地震を起こし、応力を解消しようとします。

また、固有地震は発生場所や規模だけでなく、すべりの方向や断層角といった発震機構、地震動の波形なども似通ったものになるという特徴があります。これは、同じ断層で発生することが原因です。

固有地震の未解明な点と研究

しかし、固有地震に関しては、まだ解明されていない問題も存在します。その一つが連動型地震です。例えば、東海・東南海・南海[[地震]]では、単独で発生する場合と、連動して発生する場合があります。連動型地震は、単独型地震の発生間隔の数倍の間隔で発生すると考えられていますが、その原因については研究が進められています。また、南海[[地震]]のように、過去の発生記録が残っているにもかかわらず、再来間隔が不均一な原因についても、未解明な部分が多く残されています。

固有地震と地震発生予測

一般的に、マグニチュードが増加すると地震の頻度が減少するという関係（グーテンベルグ-リヒターの関係式）がありますが、固有地震の場合は、この関係式から外れた最大地震（＝固有地震）が存在します。このため、固有地震を考慮した地震発生モデル（固有地震モデル）を用いて、内陸プレート型や海溝型の大地震の発生確率を推定することがあります。

また、断層の長期変位量や変位速度、クリープ変位速度などを用いて、固有地震の再来間隔を計算する手法も用いられています。この手法は、地質調査などによって推定された値を式に当てはめることで、大地震の発生予測を行うために活用されています。

日本の主な固有地震

南海[[地震]]、東南海[[地震]]、東海地震は、単独でマグニチュード8.0前後、100年から150年間隔で発生する固有地震として知られています。これらの地震は、プレートの沈み込み帯が地形によって3つに分かれているため、震源域が区別されています。また、日本周辺で予想されているマグニチュード7から8クラスの海溝型地震のほとんどが固有地震であると考えられています。

しかし、震源域が不明瞭で、固有地震があるとは考えられるものの、その抽出が難しい地域も存在します。例えば、浦河沖地震や青森県東方沖地震など、日高支庁から青森県にかけての海域では、準周期的にマグニチュード7から7.6程度の地震が発生していますが、固有地震としてはっきりしない部分が多いのが現状です。

海溝型地震

浦河沖地震
青森県東方沖地震

海洋プレート内（スラブ内）地震

様式が特定できないもの
日本海東縁の地震


固有地震の研究は、地震の発生メカニズムを解明し、地震災害の軽減に貢献するために、非常に重要な分野です。

参考文献

三陸沖の固有地震的地震活動 (PDF) 五十嵐俊博、『なゐふる』31号、日本地震学会、2002年5月。（M-T図）
プレート間地震から見た固有地震説 (PDF) 石辺岳男、島崎邦彦、『歴史地震』第22号、pp.157-167、2007年、歴史地震研究会
固有地震説雑考 (PDF) 垣見俊弘
相似地震によるプレート運動モニタリング 防災科学技術研究所
震源精度向上と地震活動情報の高度化に関する研究「相似地震の発生確率評価」 気象庁気象研究所 地震火山研究部、2009年4月17日。
相似地震により推定されたプレート間すべり 東北大学地震・噴火予知研究観測センター。東日本太平洋側の地震観測データから相似地震を抽出している。

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