固有肝動脈

固有肝動脈（こゆうかんどうみゃく）

概要

固有肝動脈は、生体の中心的な解毒・代謝器官である肝臓と、脂肪の消化を助ける胆汁を貯蔵する胆嚢へ、酸素に富んだ動脈血を供給する主要な血管です。この動脈は、腹部大動脈から枝分かれする大きな血管である腹腔動脈から発生する総肝動脈から分岐して生じます。肝臓の機能維持には、門脈からの栄養豊富な血液だけでなく、固有肝動脈からの十分な動脈血供給も不可欠です。

構造と走行

総肝動脈から枝分かれした固有肝動脈は、肝臓へ向かう過程で、消化管などから吸収された栄養素を肝臓へ運ぶ門脈、そして肝臓や胆嚢で作られた胆汁を十二指腸へと送る総胆管と並行して走行します。これら三つの重要な管状構造物は集合して門脈三管と呼ばれ、肝臓の機能解剖学において非常に重要な領域を形成しています。固有肝動脈は、この門脈三管の一部として、肝臓への最終的な動脈血供給路を担っています。

総肝動脈からは、固有肝動脈が分岐する前に、いくつかの他の重要な血管が分枝しています。その一つに胃十二指腸動脈があります。この動脈は下方へ伸び、胃の一部や十二指腸に血液を供給します。特に十二指腸の起始部である十二指腸球部へは、胃十二指腸動脈からさらに細い十二指腸上動脈が伸びています。胃十二指腸動脈が分岐した後、総肝動脈からは右胃動脈が分枝します。右胃動脈は胃の小彎と呼ばれる内側の縁に沿って左方向へ走行し、腹腔動脈から直接分岐する左胃動脈と合流（吻合）します。この吻合によって、胃の小彎領域への血流が確保されています。

これらの主要な分枝を出した後、総肝動脈から発生した固有肝動脈は、最終的に肝臓の左右の大部分へ血液を送る右肝動脈と左肝動脈の二つの終枝に分かれます。

解剖学的変異

固有肝動脈、特に右肝動脈と左肝動脈の分岐パターンや走行経路には、個人差による解剖学的な変異が多く見られることが知られています。これは臨床現場、特に手術や血管内治療において重要な考慮事項となります。

例えば、右肝動脈は、通常は固有肝動脈の終枝として分かれますが、約10-20%の人では腹大動脈から分岐する上腸間膜動脈（SMA）から直接発生することがあります。この場合、右肝動脈は十二指腸の後ろなどを通って肝臓へ向かう、通常とは異なる走行を示します。

同様に、左肝動脈も変異が多く、通常は固有肝動脈の終枝ですが、時には左胃動脈から発生することがあります。左胃動脈は腹腔動脈から分岐して胃の上部を走行する血管です。左肝動脈がここから発生する場合も、通常の走行とは異なります。

これらの血管変異は、術前検査などで正確に把握することが、合併症の予防や安全な手技の実施に不可欠です。

胆嚢動脈

胆嚢に血液を供給する胆嚢動脈は、通常、右肝動脈から分岐します。胆嚢動脈は胆嚢頸部の近くで右肝動脈から分かれ、胆嚢へ向かいます。この血管は胆嚢摘出術において重要な目印となり、正確な同定と処理が必要です。胆嚢動脈の分岐部位や走行にも、ある程度の個人差が見られることがあります。

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