国友忠

国友忠：戦火と浪曲、そして人道支援の生涯

国友忠（くにともただし、1919年～2005年）は、昭和を代表する浪曲師の一人です。東京府中本町で生まれ、9人兄弟の末っ子として育ちました。父は鳶職親方でした。15歳で浪曲師・初代木村重友に入門し、木村友栄を名乗り、舞台に立ちます。その後、木村小重友を襲名し、真打となります。

しかし、国友の生涯は浪曲の世界だけにとどまりませんでした。1940年、徴兵され、北支に派遣。中国で諜報活動に従事した経験を持ちます。その後、再び召集され中国へ渡り、2000人を超える中国人捕虜を率いて戦闘に加わりました。この経験は、後に映画『独立愚連隊』（岡本喜八監督）のモデルとなり、国友自身が原案を提供しています。

戦後、浪曲界に復帰した国友は、野村胡堂の『銭形平次捕物控』を脚色、自演し、数々の新作台本を執筆しました。1951年には『新人浪曲競演会』で優勝。1952年には国友忠と改名し、放送界に進出、文化放送で『銭形平次』のラジオドラマを日曜日を除く毎日5年間続けたことは、放送ドラマ史に残る記録となっています。その間、沢村豊子が相三味線を務めました。

1953年にはラジオ東京（現在のTBS）専属となり、多忙を極めます。体調を崩し、茨城県に移住して静養生活を送る期間もありましたが、その後、牧場経営を始めました。

1980年代、中国残留邦人の存在を知った国友は大きな衝撃を受けます。それ以降、私財を投じて中国残留邦人の帰国や日本での定住を支援する活動に没頭しました。「春陽会」という民間団体を設立し、多くの人の帰国を支援しました。国本武春、布目英一、玉川奈々福といった浪曲師たちも、国友の指導を受けました。

国友の浪曲への情熱は並々ならぬものでした。オリジナルの浪曲台本は百数十席、脚色したものは二千数百席に及びます。『銭形平次』以外にも、柴田錬三郎、山手樹一郎、司馬遼太郎などの作品を浪曲に脚色しました。自作の浪曲が多く、著作権にも厳格な姿勢で臨んでいたと伝えられています。独特の節回しと巧みな話術で、多くのファンを魅了しました。

2005年、転移性肺がんのため86歳で他界しました。彼の波乱に満ちた人生は、2012年にTBS系で放送されたドキュメンタリードラマ『強行帰国～忘れ去られた花嫁たち～』（渡哲也主演）で描かれ、改めて注目を集めました。国友忠は、戦火を潜り抜け、浪曲界で成功を収め、そして人道支援に人生を捧げた、稀有な人物でした。彼の功績は、今もなお多くの人々の心に刻まれています。

代表的な演目

銭形平次
雪の舟宿
藤堂高虎

演じた俳優

渡哲也（若き日：阿部力） - 『強行帰国～忘れ去られた花嫁たち～』

参考文献

芝清之　『日本浪曲大全集』　浪曲編集部　1989年
芝清之　『東西浪曲大名鑑』　東京かわら版、1982年
新井勝治　『浪曲、女子高へ行く』　朝日新聞社　2001年
強行帰国～忘れ去られた花嫁たち～

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