国土計画
国土計画とは、国の領土全体を対象として、その利用、整備、保全に関する方針や目標を定め、具体的な施策を示す包括的な計画を指します。狭義には、全国規模の計画を意味することが多く、特定の地域を対象とする地域計画と区別される場合があります。日本の国土においては、現在の国土形成計画法に基づく国土形成計画や、国土利用計画法に基づく国土利用計画などがこれにあたります。また、改正前の旧国土総合開発法に基づいて策定された全国総合開発計画も、国土計画の範疇に含まれる広域的な計画でした。
この「国土計画」という言葉は、戦前、内務省の技師であった北村徳太郎によって、ドイツ語のRaumordnung（空間調整）の訳語として用いられるようになったとされています。
国土計画の考え方は、大恐慌後の社会・経済状況を背景に、国内外の計画思想の影響を受けながら発展しました。1930年代には、エベネザー・ハワードの田園都市構想などイギリスの国土政策が日本にも紹介されていましたが、1934年から1940年にかけて東京市政調査会などで行われた研究では、大恐慌に見られる資本主義や市場経済の機能不全を踏まえ、アメリカ、イギリス、ドイツといった西側諸国の事例に加え、ソビエト連邦のゴスプラン（国家計画委員会）に代表される社会主義的な計画経済の考え方も参考にされました。
昭和15年（1940年）は、戦前の国土計画にとって画期的な年となりました。まず同年2月には、満洲国国務院において「総合立地計画策定要綱」が決定されました。この時の満洲国総務長官であった星野直樹は、同年7月に発足した第二次近衛内閣で企画院総裁に就任します。そして同年8月には、国政の基本方針を示す「基本国策要綱」が閣議決定されました。これらに続く形で、同年9月24日、第二次近衛内閣の企画院によって「国土計画設定要綱」が閣議決定されます。この決定に先立ち、近衛文麿首相のブレーン集団であった昭和研究会は、9月19日に「国土計画促進に関する意見書」を提出していました。
「国土計画設定要綱」は、当時の国際情勢を踏まえ、「新東亜建設の聖業を完遂するため」に「東亜諸邦を対象とする結合的経営計画」を樹立し、「日満支を通ずる国防国家態勢の強化」を図ることを主要な目的としていました。その策定要領では、日本、満州、中国（支）、さらには南洋を含む「東亜共栄圏」の確立を目指すとしています。計画の対象は広範にわたり、日満支における工鉱業、農林業、畜産業、水産業などの経済活動全般にわたる配分計画、交通・通信網の整備、動力計画、利水計画、さらには人口や文化厚生施設の配置計画までもが含まれていました。国内（内地）においては、北海道、東北、関東、東海、近畿、北陸、中国、四国、九州の九つの地方計画単位地域に区分し、各地域ごとの総合的な計画を進めることで、「日満支の国力を総合する」ことが目指されました（大阪朝日新聞の報道）。企画院の週報（10月2日号）では、当時形成されつつあったヨーロッパ（ドイツ、イタリア）、南北アメリカ（アメリカ合衆国）、ソ連の三大ブロックに対抗するため、日本は満州、中国、南洋を含めた大東亜共栄圏で共存共栄を図る必要性が説かれています。
その後も、昭和17年（1942年）には工業規制・建設に関する暫定措置要綱や、企画院による「大東亜国土計画大綱素案（立案のみ）」、昭和18年（1943年）には「黄海渤海国土計画要綱案」「国土計画策定要綱または中央計画素案、同要綱案」などが策定されました。しかし、「国土計画策定要綱」で推奨された中央計画素案は、日米関係の悪化など国際情勢の緊迫化により、緊急性の高い課題への対応に留まりました。昭和17年の「大東亜国土計画大綱素案」や昭和20年（1945年）の「戦時国土計画素案」も、立案はされたものの閣議決定には至らず、終戦まで国土計画の推進は事実上中断されました。さらに、企画院職員が左翼思想の持ち主として摘発された「企画院事件」の影響もあり、企画院は昭和18年10月31日に廃止され、同年11月以降は内務省国土局が計画策定を担当しました。
第二次世界大戦終結後、日本の国土計画は新たなスタートを切りました。終戦直後の昭和20年（1945年）9月27日には、内務省が国土計画に関する基本方針を発表しています。また、昭和22年（1947年）3月24日には、内務省が地方計画策定の基本要綱を示しました。同年12月13日には、連合国軍総司令部（GHQ）の支援の下、資源委員会が設立され、国土の復興と開発に向けた取り組みが進められました。
国土計画に関連する論点として、日本統治時代の朝鮮における「京城（現在のソウル）首都化計画説」があります。元韓国国土開発研究院長の金儀遠氏は、日本政府が朝鮮人を満洲へ移住させ、日本人が朝鮮半島に居住するため、京城を日本の首都としようとしたと主張しています。その根拠として、1943年の「国土計画中央計画素案」において、京城府、岡山、福岡の3ヶ所が首都移転の候補地として検討されていたことを挙げています。一方、日本の国土地理院は、この中央計画素案は地域間の格差是正と国土防衛の観点から、産業や人口が大都市に過度に集中することを避ける配慮がなされていた計画であると評価しています。これは、金氏の主張とは異なる解釈です。
戦前・戦後の国土計画は、それぞれの時代の社会・経済情勢や国家目標を反映しながら展開されてきました。これらの歴史的経緯は、現代の国土に関する計画策定にも重要な示唆を与えています。
この「国土計画」という言葉は、戦前、内務省の技師であった北村徳太郎によって、ドイツ語のRaumordnung（空間調整）の訳語として用いられるようになったとされています。
戦前の国土計画
国土計画の考え方は、大恐慌後の社会・経済状況を背景に、国内外の計画思想の影響を受けながら発展しました。1930年代には、エベネザー・ハワードの田園都市構想などイギリスの国土政策が日本にも紹介されていましたが、1934年から1940年にかけて東京市政調査会などで行われた研究では、大恐慌に見られる資本主義や市場経済の機能不全を踏まえ、アメリカ、イギリス、ドイツといった西側諸国の事例に加え、ソビエト連邦のゴスプラン（国家計画委員会）に代表される社会主義的な計画経済の考え方も参考にされました。
昭和15年（1940年）は、戦前の国土計画にとって画期的な年となりました。まず同年2月には、満洲国国務院において「総合立地計画策定要綱」が決定されました。この時の満洲国総務長官であった星野直樹は、同年7月に発足した第二次近衛内閣で企画院総裁に就任します。そして同年8月には、国政の基本方針を示す「基本国策要綱」が閣議決定されました。これらに続く形で、同年9月24日、第二次近衛内閣の企画院によって「国土計画設定要綱」が閣議決定されます。この決定に先立ち、近衛文麿首相のブレーン集団であった昭和研究会は、9月19日に「国土計画促進に関する意見書」を提出していました。
「国土計画設定要綱」は、当時の国際情勢を踏まえ、「新東亜建設の聖業を完遂するため」に「東亜諸邦を対象とする結合的経営計画」を樹立し、「日満支を通ずる国防国家態勢の強化」を図ることを主要な目的としていました。その策定要領では、日本、満州、中国（支）、さらには南洋を含む「東亜共栄圏」の確立を目指すとしています。計画の対象は広範にわたり、日満支における工鉱業、農林業、畜産業、水産業などの経済活動全般にわたる配分計画、交通・通信網の整備、動力計画、利水計画、さらには人口や文化厚生施設の配置計画までもが含まれていました。国内（内地）においては、北海道、東北、関東、東海、近畿、北陸、中国、四国、九州の九つの地方計画単位地域に区分し、各地域ごとの総合的な計画を進めることで、「日満支の国力を総合する」ことが目指されました（大阪朝日新聞の報道）。企画院の週報（10月2日号）では、当時形成されつつあったヨーロッパ（ドイツ、イタリア）、南北アメリカ（アメリカ合衆国）、ソ連の三大ブロックに対抗するため、日本は満州、中国、南洋を含めた大東亜共栄圏で共存共栄を図る必要性が説かれています。
その後も、昭和17年（1942年）には工業規制・建設に関する暫定措置要綱や、企画院による「大東亜国土計画大綱素案（立案のみ）」、昭和18年（1943年）には「黄海渤海国土計画要綱案」「国土計画策定要綱または中央計画素案、同要綱案」などが策定されました。しかし、「国土計画策定要綱」で推奨された中央計画素案は、日米関係の悪化など国際情勢の緊迫化により、緊急性の高い課題への対応に留まりました。昭和17年の「大東亜国土計画大綱素案」や昭和20年（1945年）の「戦時国土計画素案」も、立案はされたものの閣議決定には至らず、終戦まで国土計画の推進は事実上中断されました。さらに、企画院職員が左翼思想の持ち主として摘発された「企画院事件」の影響もあり、企画院は昭和18年10月31日に廃止され、同年11月以降は内務省国土局が計画策定を担当しました。
戦後の国土計画
第二次世界大戦終結後、日本の国土計画は新たなスタートを切りました。終戦直後の昭和20年（1945年）9月27日には、内務省が国土計画に関する基本方針を発表しています。また、昭和22年（1947年）3月24日には、内務省が地方計画策定の基本要綱を示しました。同年12月13日には、連合国軍総司令部（GHQ）の支援の下、資源委員会が設立され、国土の復興と開発に向けた取り組みが進められました。
日本統治時代の京城首都化計画説
国土計画に関連する論点として、日本統治時代の朝鮮における「京城（現在のソウル）首都化計画説」があります。元韓国国土開発研究院長の金儀遠氏は、日本政府が朝鮮人を満洲へ移住させ、日本人が朝鮮半島に居住するため、京城を日本の首都としようとしたと主張しています。その根拠として、1943年の「国土計画中央計画素案」において、京城府、岡山、福岡の3ヶ所が首都移転の候補地として検討されていたことを挙げています。一方、日本の国土地理院は、この中央計画素案は地域間の格差是正と国土防衛の観点から、産業や人口が大都市に過度に集中することを避ける配慮がなされていた計画であると評価しています。これは、金氏の主張とは異なる解釈です。
戦前・戦後の国土計画は、それぞれの時代の社会・経済情勢や国家目標を反映しながら展開されてきました。これらの歴史的経緯は、現代の国土に関する計画策定にも重要な示唆を与えています。
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