昭和研究会

昭和研究会とは

昭和研究会は、1930年代に近衛文麿の私的ブレーントラストとして活動した政策研究団体です。主宰者は近衛の側近であった後藤隆之助で、1933年12月に設立されました。当初は私的な勉強会としての色彩が強かったものの、1936年11月には正式な組織として発足しました。

設立の背景

後藤隆之助は、昭和恐慌で困窮する農村の救済を近衛文麿に訴え、時事問題懇談会を設立しました。これが昭和研究会の前身です。組織の綱領は蠟山政道とともに作成され、「現行憲法の範囲内での国内改革」「既成政党の排撃」「ファシズムへの反対」を掲げました。

当初は、近衛を囲む政治・経済・社会に関する勉強会でしたが、近衛が首相候補として浮上すると、組織としての結成が進められました。設立趣意書では、「非常時局を円滑に収拾し、国力の充実発展を期するため、外交、国防、経済、社会、教育、行政等の各分野にわたり、刷新の方策を調査研究する」ことが謳われました。

組織と活動

常任委員とそれを補佐する委員の下に、10ほどの部会が設置され、各部会ごとに専門委員会や研究会が組織されました。各界のメンバーが調査研究にあたり、その成果は近衛内閣に答申されたほか、書籍としても一般に公開されました。

昭和研究会は、東亜協同体論や新体制運動を主張し、近衛の「東亜新秩序」や「大政翼賛会」に影響を与えましたが、同時に国粋主義者からは「アカ」と批判されました。また、新体制運動に対する会員間の意見の相違も表面化し、組織は発展的に解散しました。

前史

後藤隆之助は、大日本連合青年団で農業問題に取り組んでいました。この時期、近衛は日本青年館の初代館長を務めており、二人の親交が深まりました。後藤は、昭和恐慌による農村の疲弊を目の当たりにし、その解決を模索する中で、近衛との連携を深めていきました。

1931年には、大日本連合青年団に思想対策の研究懇親会と農村問題研究会が設立され、農村の更生が課題となりました。満州事変やクーデター未遂事件が相次ぎ、政治情勢が不安定化する中、後藤は欧米を視察し、各国の情勢を把握しました。アメリカではルーズベルト大統領のニューディール政策に感銘を受け、帰国後、政策研究団体の設立を決意しました。

帰国後、後藤は近衛と相談し、時事問題懇談会を主催する個人事務所を設立しました。国防外交、教育、大衆政党の政策、財政、農林計画、社会経済、行政、金融など、多岐にわたる分野で研究会が開催され、各界の有識者が参加しました。その後、昭和研究会と改称され、本格的な活動が始まりました。

正式な発足

1936年11月、昭和研究会は正式に設立されました。この背景には、二・二六事件後の政治的混乱がありました。近衛への首相待望論が高まる中、研究会は政策立案の基盤としての役割を担うことになりました。しかし、近衛が首相就任を辞退したことで、一時的に活動が停滞しました。

その後、廣田内閣、林内閣が短命に終わり、1937年に近衛内閣が成立すると、昭和研究会関係者も入閣し、政策実現に向けて動き出しました。日中戦争勃発後には、後藤らが満州などを視察し、対外政策の検討も行われました。

その後の展開

三木清、矢部貞治、笠信太郎らが常任委員に加わり、専門研究会が増加しました。政治、経済、世界、文化といった部門ごとに研究が行われ、専門性が高まりました。会員間の交流を深めるための七日会や、若手中心の昭和同人会、昭和塾などの関連団体も設立されました。

大政翼賛会との関係

昭和研究会は、東亜協同体論や新体制運動を主張し、大政翼賛会に大きな影響を与えましたが、その設立過程においては、軍部や官僚との意見の相違が生じました。後藤は当初、選抜されたメンバーによる組織を目指しましたが、政党が一斉に解党したことで、大政翼賛会に全てを押し込むことになりました。このため、議員らの不満が高まり、翼賛会の予算審議では批判が噴出しました。

政府は翼賛会を「公事結社」と定義しましたが、実際には軍部の戦争遂行の道具となり、昭和研究会のメンバーも失望しました。企画院事件では会員が逮捕され、翼賛会の予算も削減され、昭和研究会からの参加者は辞表を提出しました。

解散とその後

大政翼賛会に多くのメンバーが参加したことで、昭和研究会は手薄になり、後継者も見つからなかったため、1940年11月に解散しました。解散後も、昭和塾は活動を続けましたが、ゾルゲ事件で幹部が逮捕され、解散を余儀なくされました。

戦後、後藤隆之助は昭和同人会を再興しましたが、活動は限定的でした。主な活動は、近衛文麿の伝記編纂でした。

組織の詳細

昭和研究会は、政治部門、経済部門、世界部門、文化部門で構成されていました。政治部門では、政治機構改革の研究が行われ、大臣長官分離制や少数閣僚制などの改革案が提示されました。経済部門では、高橋亀吉を中心に国家経済動員計画が策定され、笠信太郎が日本資本主義の再編成を提唱しました。世界部門では、支那問題を中心に研究が行われ、戦争回避に向けた意見交換が行われました。文化部門では、三木清を中心に「新日本の思想原理」などのパンフレットが作成され、思想的な側面からの研究が進められました。

評価

昭和研究会は、その活動について様々な評価がなされています。竹内洋は、研究会を「革新官僚の思想的根拠」と評価し、マイルズ・フレッチャーは、その「知識人によるファシズムへの接近」と位置づけました。内田弘は、三木清の役割を重視し、遠山茂樹らは、その「戦争協力」という側面を指摘しました。

関連事項

昭和研究会に関連する事項として、革新官僚、東亜協同体論、企画院事件、尾崎・ゾルゲ事件、横浜事件、社会思想社、日本太平洋問題調査会などが挙げられます。

関連文献

多くの文献で、昭和研究会の活動やその影響について研究されています。特に、伊藤智英の著書は、昭和研究会の思考様式や政治行動を詳細に分析しています。

まとめ

昭和研究会は、戦前の日本において、政策立案や思想形成に大きな影響を与えた知識人集団でした。その活動は多岐にわたり、後の日本の政治や社会に大きな影響を及ぼしましたが、その評価は多面的です。

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