国民融合論

国民融合論とは

国民融合論は、日本共産党が提唱し、全国部落解放運動連合会（全解連）が運動の基調に据えた部落解放理論の一つです。当初は「国民的融合論」と称していました。

形成過程

国民融合論の形成過程は、戦後の部落問題に対する認識をめぐる議論と深く関わっています。

奈良本論文

1961年、部落問題研究所長の奈良本辰也は、論文「部落解放の展望」で、政府・支配階級が部落差別を温存する理由はないと予測しました。そして、部落の生活向上が進むだろうという見解を示しました。これは、当時の部落解放同盟の「アメリカ帝国主義こそ差別元凶」という立場と対立し、大きな反響を呼びました。この論文は、部落差別が現体制下で解消する可能性に言及した先駆的なものでしたが、当時の運動団体の路線に大きな影響を与えるには至りませんでした。

北原泰作の「基調報告」

1967年、部落解放同盟中央執行委員の北原泰作は、高度経済成長が部落差別の物質的基盤を掘り崩すと評価し、近代市民社会への参入による部落解放の可能性を示唆しました。しかし、この提言は当時、共産党を含む多くの勢力から違和感を持たれました。日本共産党は、北原の主張を「改良主義的、融和主義的」と批判しました。

日本共産党の公式路線へ

1960年代末、解放同盟と共産党の対立が深まる中、共産党幹部の榊利夫は、北原泰作に接近し、「国民的融合論」を共産党公認の部落解放理論として提唱しました。そして、その歴史的根拠を全国水平社の「人民的融和」に求めました。この理論は、1976年に全解連の公式路線となりました。

主張の骨子

国民融合論は、部落問題を近世の身分制度の残存と捉え、封建遺制の克服は資本主義の枠内で可能と見なします。同和対策事業の進展に伴い、部落差別は解消に向かうと主張します。

これに対し、部落解放同盟は、部落差別は資本主義社会では解消されないという立場を長らくとってきました。現行綱領では、市民社会の中での人権保障を求める立場を明確化していますが、部落差別が解消に向かっているとは必ずしも言い切れないとの認識を示しています。

参考文献

* 峯岸賢太郎『部落問題の歴史と国民融合』（1994年、部落問題研究所）

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