国軍機務司令部

国軍機務司令部：韓国軍の影と光

大韓民国国軍機務司令部は、建国以来、防諜活動と犯罪捜査を担ってきた特務機関です。その歴史は、1948年、南朝鮮国防警備隊の特別調査課に遡ります。朝鮮戦争を経て陸軍本部直属の特務部隊として独立、スパイ摘発などの任務に特化しました。しかし、李承晩政権下では、反共・防諜の名の下に政敵粛清が行われ、司令部は政治的道具として利用される側面も持ちました。

1960年の四月革命後、防諜部隊に改編されたものの、1968年、朴正熙政権下では陸軍保安司令部に昇格、権限を拡大します。軍内部の犯罪捜査や防諜に加え、将校の政治的傾向や忠誠心の調査、不穏分子の監視排除といった、隠蔽性の高い活動も実施。朴正熙大統領への絶対的な忠誠が求められる、いわば大統領直属の親衛隊のような存在となりました。

1977年には海軍と空軍の防諜部隊を統合、国軍保安司令部となり、全軍を統括する特務機関へと発展しました。大統領への直属報告権限を持ち、中央情報部、大統領警護室と並ぶ朴正熙政権の三本柱とも呼ばれました。1979年の朴正熙暗殺後、全斗煥少将率いる新軍部は、保安司令部の情報力と捜査権限を駆使し、クーデターを実行、政権を掌握します。

その後、第五共和国時代を通じて政権中枢として、反政権勢力や民主化運動の弾圧にも関与。しかし、1987年の民主化以降、批判が強まり、1989年にはクーデター計画「清明計画」の存在が暴露される「国軍保安司令部民間人査察事件」が発生、司令官更迭と組織改編を招きます。1991年、国軍機務司令部と改称、民間人調査の中断が約束されました。

2014年'>[2008年]]には京畿道果川市に移転しましたが、セウォル号沈没事故]や[[朴槿恵大統領弾劾(2016年)への関与が明らかになるなど、その後も不祥事が相次ぎました。特に、セウォル号事故遺族の監視や、朴槿恵大統領弾劾阻止のための戒厳令布告準備、インターネット世論工作、野党議員逮捕計画、報道機関への検閲など、民主主義を脅かす行為が明るみに出ました。

これらの不祥事を受け、2018年9月1日、文在寅大統領は国軍機務司令部の解体を決定。後継組織として軍事安保支援司令部が設立され、2022年には国軍防諜司令部に改称されました。

国軍機務司令部(およびその前身組織)は、韓国現代史において、国家安全保障と政治的権力闘争の両面に深く関与してきた複雑な組織でした。その歴史は、民主主義の進展と軍の役割、そして権力の限界について、多くの示唆を与えてくれます。

主な不祥事

2012年：機務司令部幹部による未成年者性売買、横領、脱営、飲酒運転事故の隠蔽
李明博政権下：大統領秘書官との共謀によるオンライン政治関与
セウォル号事故(2014年)：遺族の個人情報や政治性向の査察、与党勝利のための世論操作
朴槿恵弾劾(2016年)：弾劾阻止のための戒厳令布告準備、インターネット世論工作、野党議員逮捕計画、報道機関への検閲計画

これらの不祥事は、国軍機務司令部が、本来の任務を超えて、政治的権力闘争に介入し、人権侵害や民主主義の阻害に関与してきたことを示しています。

解体とその後

国軍機務司令部の解体は、韓国社会における軍の役割と民主主義のあり方についての大きな転換点となりました。その後継組織である国軍防諜司令部は、より透明性が高く、国民の信頼を得られる組織となることが期待されています。しかし、その歴史を踏まえ、権力の濫用を防ぐための厳格な監視体制の構築が不可欠です。

国軍機務司令部の歴史は、韓国の民主化と軍の役割の変化、そして国家と国民との関係性を理解する上で、重要な教訓を与えてくれます。

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