国鉄860形蒸気機関車

860形蒸気機関車：日本初の国産機

860形は、日本国有鉄道の前身である逓信省鉄道庁が神戸工場で製造したタンク式蒸気機関車で、日本初の国産蒸気機関車として鉄道史にその名を刻んでいます。

誕生と構造

1893年（明治26年）5月に神戸工場で完成した860形は、車軸配置2-4-2（1B1）の2シリンダ複式飽和式タンク機関車です。設計と製造を指揮したのは、当時神戸鉄道局の汽車監察方であったイギリス人、リチャード・フランシス・トレビシック。彼は本国で注目されていた複式機関車の試作を思い立ち、日本人技術者たちと共に開発に着手しました。主要部品はイギリスからの輸入品でしたが、主台枠の仕上げや鉄・真鍮部品の製造は神戸工場で行われました。

基本設計は同時期の標準型である単式タンク機関車A8形を基にしており、寸法もほぼ同一です。しかし、煙室前板の下部を大きく広げた末広形状はトレビシックの特徴であり、後の製造形式にも受け継がれています。

運用と評価

完成後、860形はAE形（221）と命名され、京都 - 神戸間で運用を開始。単式タンク機関車との比較試験では、石炭消費量を10-15%削減できることが確認されました。しかし、複式機関車は構造の複雑さや、平坦な路線以外では効果を発揮しにくい点から、官設鉄道では普及しませんでした。積極的に導入したのは山陽鉄道程度でした。

形式変遷と晩年

1894年の私設鉄道分離に伴い137号機へ、1898年には鉄道作業局でA9形に、1902年には885号機に改番。1909年の鉄道院車両形式称号規程で、860形（860号機）となりました。1918年に廃車後、樺太庁鉄道へ移管され樺太東線で使用されましたが、1929年に廃車解体されました。

保存と展示

860形の実機は現存しませんが、1985年の国際科学技術博覧会（つくば'85）では221号機の原寸大レプリカが展示され、製造時の様子が再現されました。また、鉄道博物館には1/15模型（221号機）、国立歴史民俗博物館には1/10模型（137号機）が所蔵されています。

参考文献

臼井茂信「日本蒸気機関車形式図集成」1969年、誠文堂新光社刊
臼井茂信「機関車の系譜図 1」1972年、交友社刊
金田茂裕「日本蒸気機関車史 官設鉄道編」1972年、交友社刊
金田茂裕「形式別 国鉄の蒸気機関車 I」1984年、機関車史研究会
川上幸義「私の蒸気機関車史 上」1978年、交友社刊
高田隆雄監修「万有ガイドシリーズ12 蒸気機関車 日本編」1981年、小学館刊

関連項目

* 国鉄230形蒸気機関車 - 日本初の量産型国産蒸気機関車（1902年/明治35年）

860形は、短命ながらも日本の鉄道技術史における重要な足跡を残した機関車として、記憶されるべき存在です。

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