国際地球基準座標系

国際地球基準座標系（ITRF）

国際地球基準座標系（ITRF：International Terrestrial Reference Frame）は、地球上での精密な位置や移動を測る際に用いられる、実用的な三次元直交座標系です。これは、より基本的な概念である国際地球基準系（ITRS：International Terrestrial Reference System）を、観測データに基づいて具体的に実現したものです。

国際地球基準系（ITRS）とは

ITRSは、地球表面やその近傍で行われる測量に最適な高精度な参照系（基準となる枠組み）を構築するための、基準や手順を定めたものです。これは、長さなどの物理的な計量標準が、その「現示」すなわち具体的な実現方法とともに定義されるのと同様のアプローチをとります。ITRSは、国際単位系（SI）を用いて、地球の重心を原点とする「地心座標系」を定義しています。この座標系の原点は、固体地球に加え、海や大気の質量も含めた地球全体の重心に設定されています。座標軸は、地球の自転軸やグリニッジ子午線面など、特定の天文学的・物理学的な方向に合わせて定められています。

ITRFの役割と定義

ITRFは、このITRSの定義に基づき、世界各地の観測局での精密な測量データ（例えば、衛星レーザー測距、超長基線電波干渉法、GNSS観測、DORISなど）を用いて構築されます。ITRFは、地球上の特定の地点の座標値を、その地点のわずかな移動（プレートテクトニクスなど）も含めて、時間とともに変化する座標として記述します。ITRSを可能な限り忠実に実現するため、ITRFは数年ごとに、最新の観測データと高度な数学的解析手法を用いて更新され、新しいバージョン（例：ITRF94、ITRF2000、ITRF2008、ITRF2014など）が発表されます。しかし、観測に伴う微小な誤差があるため、厳密には異なるバージョンのITRF間にはわずかなずれが存在します。

他の座標系との関係と維持管理

広く利用されている衛星測位システム（GNSS、例えばGPSやガリレオなど）で使われる座標系も、多くの場合ITRFを参照しています。例えば、かつてヨーロッパのガリレオシステムで使用されていたGTRF（Galileo Terrestrial Reference Frame）はITRF2005として定義されていました。また、GPSで使われるWGS 84座標系も、最新版ではITRFと非常に近い精度を持っており、両者の差異はわずか数センチメートル程度（2006年時点の情報に基づく）とされています。

ITRSとITRFは、国際的な科学機関である国際地球回転・基準系事業（IERS：International Earth Rotation and Reference Systems Service）によって継続的に維持・管理されています。IERSは、地球の自転や極運動といった変動、および地球上の基準点の精密な座標と速度を決定し、世界の測量やナビゲーション、地球科学研究の基盤を提供しています。

日本におけるITRFの利用状況

日本の公式な測地系は、平成23年に制定された日本測地系2011（JGD2011、通称「測地成果2011」）です。これは、ITRFを参照して定義された世界測地系の一つです。JGD2011では、東日本大震災に伴う広域的な地殻変動を考慮し、地域によって参照するITRFのバージョンとその基準時点（元期）が分けられています。

東北地方、関東地方、および中部地方の一部（静岡県と愛知県を除く）では、ITRF2008が採用されており、元期は2011年5月24日と定められています。
その他の地域では、ITRF94が採用されており、元期は1997年1月1日となっています。

これは、各地の地殻変動量を計算し、異なる元期のITRFで表現された座標値を、JGD2011の座標値へ変換するための基準となります。また、国土地理院が全国に展開する電子基準点の座標解析においては、より新しいITRF2014が基準座標系として採用されています。

ITRFは、地球規模での精密な位置決定、地殻変動の監視、人工衛星の軌道計算、そして現代の衛星測位システムの運用に不可欠な、グローバルな基準となる座標系です。

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