電子基準点

電子基準点とは

電子基準点とは、国土地理院が管理するGNSS（Global Navigation Satellite System：全球測位衛星システム）を用いた測量における基準点であり、観測点の一つです。全国に約1,300ヶ所が設置され、高精度な測量や地殻変動の監視に重要な役割を果たしています。

概要

電子基準点は、日本全国に概ね20km間隔で設置されており、離島や山岳地帯にも存在します。多くは学校や公園に設置され、地図上では三角点と電波塔を組み合わせたような記号で示されます。

国土地理院は、高精度な測量網と地殻変動監視システムとしてGNSS連続観測システム（GEONET）を構築しました。電子基準点は、このGEONETの観測点として機能し、その観測網は世界でも有数の規模と品質を誇ります。

電子基準点の観測データは、測量だけでなく、地殻変動の監視、地震発生時の断層モデル推定、津波予測など、多岐にわたる分野で利用されています。

外観

電子基準点は、高さ約5mのステンレス製ピラーで構成されています。ピラー上部の白い半球内には、GNSS衛星からの電波を受信するアンテナが格納されています。この形状は、上空視界を確保し、マルチパスによる品質劣化を防ぐための工夫です。ピラー内部には受信機や通信機器が収納されています。設置年度によってピラーの形状が異なり、93型、94型、02型などが存在します。また、設置場所の環境に合わせて特殊な形状のものもあります。

電子基準点には、軌道追跡局、地殻変動観測施設、験潮施設、高精度比高観測施設と呼ばれるものもあり、これらは一般的な電子基準点とは異なる形状をしています。夏季には、太陽光による熱膨張を防ぐための覆いが設置されることもあります。

用途

測量の基準点として

GNSS測量では、2点以上の観測点で同時にデータを取得し、相対測位を行うことで、点間の基線長を高精度に計算できます。電子基準点を既知点として利用することで、測量作業の効率化が図れます。

国土地理院の「電子基準点データ提供サービス」では、30秒間隔の観測データや放送暦が無償で提供されており、誰でも利用できます。また、「基準点成果等閲覧サービス」では、電子基準点の成果値が提供されており、測量データの精度向上に貢献しています。

電子基準点の基礎部には、電子基準点付属標と呼ばれる金属標が埋設されており、トータルステーションを用いた測量にも利用できます。一部の電子基準点には、水準測量によって標高が定められており、二等水準点として標高成果が公開されています。これにより、GNSS測量機による水準測量も可能になります。

地殻変動の監視

電子基準点で観測されたデータは、常時接続回線を通じて国土地理院にリアルタイムで収集され、座標値や対流圏遅延の値が推定されます。国土地理院は、解析結果を迅速解(Q)・速報解(R)・最終解(F)の3種類に分けて提供しています。特に速報解と最終解は、日々の座標値として公開され、地殻変動の研究に活用されています。

日本列島は、4つのプレートが接する場所に位置しているため、地震や火山活動が活発で、地殻変動も顕著です。電子基準点のデータは、過去の地震による地殻変動を捉え、地震学や地球物理学の研究に大きく貢献してきました。例えば、2011年の東北地方太平洋沖地震では、牡鹿半島の電子基準点で5m以上の変動が観測されています。また、地震後の余効変動も、電子基準点の観測データによって明らかになっています。

ただし、電子基準点の座標値には、気象条件、電離層の擾乱、周辺環境の影響、解析上の問題など、様々な要因によるノイズが含まれるため、実際の地殻変動を捉えるためには、慎重な解析が必要です。

その他

電子基準点のデータは、民間事業者にも提供されており、ネットワーク型RTK-GNSSなどの高精度測位サービスに利用されています。また、地震発生時には、地殻変動量をリアルタイムで解析し、震源断層モデルを推定する手法にも活用されています。

電子基準点の名称

電子基準点の名称は、基本的に市町村名と6桁の番号で構成されます。同一市町村内に複数設置されている場合は、市町村名の後ろに1,2などの数字が付加されます。6桁の番号は、上2桁が設置年の下2桁、下4桁が通算の点番号を表しています。ただし、初期の観測点では5桁の番号が使われていることもあります。また、地殻変動観測施設や験潮施設など、特別な目的を持つ電子基準点には、R、S、P、Hなどの記号が付与されます。

歴史

• - 1992年: GPS連続観測網構築に向けた試験観測開始。
• - 1993年: 南関東・東海地方を中心に約110点の電子基準点（COSMOS-G2）設置。
• - 1994年: 全国に約100点の電子基準点（GRAPES）設置。北海道東方沖[[地震]]、三陸はるか沖[[地震]]発生。
• - 1995年: 兵庫県南部[[地震]]（阪神・淡路大震災）発生。
• - 1996年: COSMOS-G2とGRAPESを統合し、GEONETとして運用開始。
• - 2002年: 日本測地系から世界測地系へ移行。電子基準点が公共測量で利用可能に。リアルタイムデータ配信開始。
• - 2011年: 東北地方太平洋沖地震（東日本大震災）発生。
• - 2013年: GLONASS、QZSSの利用開始。
• - 2016年: Galileoの利用開始。
• - 2021年: 解析ストラテジ(第5版)に基づく日々の座標値F5解・R5解の正式運用開始。
• - 2024年: RINEX 4.01形式による電子基準点観測データの試験公開を開始。

まとめ

電子基準点は、高精度な測量と地殻変動の監視に不可欠な存在です。国土地理院による観測データの公開や各種サービスによって、その活用範囲は広がり続けています。電子基準点のデータは、私たちの生活を支える様々な分野で活用され、より安全で豊かな社会の実現に貢献しています。

参考文献

杉本末雄・柴崎亮介 編『GPSハンドブック』朝倉書店（原著2010年9月25日）。ISBN 978-4-254-20137-6。

関連項目

電子基準点一覧
衛星測位システム（GNSS）
リアルタイムキネマティック
衛星航法補強システム
グローバル・ポジショニング・[[システム]]（GPS）
ディファレンシャルGPS
三角点
電子国土
国土地理院
地図
国家座標
Ntrip

外部リンク

電子基準点とは - 国土地理院
電子基準点データ提供サービス
基準点成果等閲覧サービス
* マルチGNSS解析ソフトウェア「GSILIB」

もう一度検索