国際寝台車会社

国際寝台車会社（CIWL）とは

国際寝台車会社（フランス語: Compagnie internationale des wagons-lits、CIWL）は、1872年にベルギーの実業家ジョルジュ・ナゲルマケールスによって設立された、ヨーロッパ全域で活動した鉄道事業者です。ドイツ語圏では「ISG」（Internationale Schlafwagen-Gesellschaft）とも呼ばれ、日本語ではワゴン・リ社、ワゴン・リー社とも呼ばれていました。

独自の路線や機関車は持たず、豪華な寝台車や食堂車を中心とした国際列車を運行していました。特に有名なのは、オリエント急行です。2007年以降は定期列車の運行から撤退し、現在はフランス、オーストリア、イタリア、スペイン、ポルトガル、イギリスの6か国で車内サービスを提供する企業として活動しています。本社はフランスのパリにあります。

歴史

設立の背景

19世紀後半、ヨーロッパの鉄道網は各国が独自に整備を進めており、国を跨いでの長距離列車はほとんどありませんでした。寝台車や食堂車も連結されておらず、旅行者は駅のレストランで食事を取る必要がありました。一方、アメリカではプルマン社が長距離寝台列車を運行しており、ナゲルマケールスはアメリカ旅行でこの着想を得ました。

設立と発展

ナゲルマケールスは、ヨーロッパ人の好みに合わせたコンパートメント式の寝台車を導入し、1872年にワゴン・リ社を設立しました。当初はアメリカ人富豪の出資を受けましたが、後にプルマン社との競争を経て、ヨーロッパの寝台列車事業をほぼ独占するに至りました。オリエント急行の成功が、その地位を確立する上で大きな役割を果たしました。

第一次世界大戦と戦間期

第一次世界大戦中は国際列車の運行が停止し、ワゴン・リ社の車両は軍に徴用されました。戦後、ワゴン・リ社は運行を再開し、1920年代にはアール・デコ調の豪華な車両を導入しました。1931年には2,268両の車両を所有し、ヨーロッパ全域、北アフリカ、中東などで列車を運行していました。アガサ・クリスティの小説『オリエント急行の殺人』に登場するなど、その名声は広く知れ渡りました。

第二次世界大戦後

第二次世界大戦後、冷戦の影響や航空機・自動車の普及により、長距離列車の需要が低下しました。ワゴン・リ社は事業の中心をホテルや観光業、車内サービスに移し、1971年には鉄道事業から撤退しました。その後、TGVやユーロスターなどの高速列車で車内サービスを提供し、1991年にはアコーグループの傘下に入りました。

主な列車

オリエント急行: 1883年に運行を開始した、パリとコンスタンティノープル（現イスタンブール）を結ぶ豪華列車。ヨーロッパとアジアを結ぶ初の列車として、人気を博しました。
北急行・南急行: それぞれパリとサンクトペテルブルク、マドリード・リスボンを結ぶ列車。ヨーロッパの南北を結ぶ重要な路線でした。
コート・ダジュールへの列車: リヴィエラへの観光客輸送を目的とした列車。サンクトペテルブルク-ウィーン-カンヌ急行、リヴィエラ急行、カレー・地中海急行（「青列車」）などが運行されました。
シベリア鉄道: シベリア鉄道では、モスクワとウラジオストクを結ぶ「シベリア横断急行」が運行されました。パリから日本への切符も発売され、ヨーロッパとアジアを結ぶ重要な役割を果たしました。
ナイト・フェリー: パリとロンドンを結ぶ列車。鉄道連絡船による車両航送が行われ、乗客は眠ったままドーバー海峡を渡ることができました。

その他の事業

ワゴン・リ社は、主要都市や観光地でホテルも経営していました。有名なホテルとしては、北京の「グランド・ホテル」、イスタンブールの「ペラ・パレス」などがあります。

参考文献

平井正 『オリエント急行の時代』 中央公論新社〈中公新書〉、2006年
* Guizol, Alban (2005). La Compagnie Internationale des Wagons-lits. Chanac: La Régordane. ISBN 2-906984-61-2

もう一度検索