土井隆義

土井 隆義

土井 隆義（どい たかよし）は、1960年7月17日に山口県で生まれた日本の社会学者です。現在、筑波大学人文社会系の教授を務めており、犯罪社会学、法社会学、逸脱行動論、そして社会問題論を主な専門分野としています。

経歴

1960年に生を受けた土井隆義氏は、筑波大学第一学群を卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科の博士後期課程に進みました。その後、同課程を中途退学しますが、2004年には大阪大学より博士（人間科学）の学位を取得しています。その際の学位論文の題目は「＜非行少年＞の消滅 ： 個性神話と少年犯罪」であり、後の主要な研究テーマの基礎となりました。現在は、筑波大学社会・国際学群の社会学類で教鞭を執り、後進の育成にもあたっています。

主な研究・活動

土井隆義氏は、特に近年の少年犯罪の様相について社会学的な視点から深く分析し、注目を集めています。従来の「非行少年」という概念では捉えきれない、突発的で予期せぬ形をとる「暴発型」少年犯罪を、社会の変容と関連づけて論じています。彼の代表的な著書である『＜非行少年＞の消滅 -個性神話と少年犯罪-』（信山社出版）では、現代日本社会が抱える病理として、後期近代（ポストモダン）において「自分らしさ」や「個性」が過剰に追求される傾向が、少年犯罪の背景にあると考察しました。この著作の理論的基盤となった論文「『社会』を喪失した子どもたち」および「社会病理としての個性化」によって、土井氏は2003年に犯罪学分野の優れた論文に贈られる菊田クリミノロジー推奨賞を受賞しています。

また、彼は少年に対する社会の視線がどのように変化してきたか、特に、かつては異質な存在も社会の中に受け入れようとする傾向があったのが、近年では排除する方向へと向かっている現状についても論じています。この議論は、少年犯罪のみならず、現代社会の人間関係や規範の変化を理解する上で重要な視点を提供しています。いじめの問題についても積極的に言及しており、社会構造の変化が子どもたちの置かれる状況にどう影響しているかについても深い洞察を示しています。

提唱する概念・用語

土井氏は、現代の若者文化や心理を読み解く上で、いくつかの独自の概念や用語を提唱しています。

新しい宿命主義: 教育社会学者の苅谷剛彦が提唱する「意欲格差」が進む社会状況の下で、若者が自らの人生は生まれ持った才能や素質によって全て決まっていると信じ込んでしまう心理状態を指します。前近代における身分制度のような「非合理的な」要因ではなく、才能や素質という「一見合理的な」ものによって人生が規定されると信じ込まれる点が特徴です。
優しい関係: 現代の若者間のコミュニケーションにおいて頻繁に見られるとされる特徴的な傾向です。具体的には、人間関係における摩擦や衝突を極度に避けようとし、表面的な平穏を保とうとする態度を指します。これは、アルトゥル・ショーペンハウアーの寓話「ヤマアラシのジレンマ」で描かれるような、互いに傷つけ合うことを恐れて適切な距離感がとれない状況と類似した概念と言えます。
内キャラ／外キャラ: 個人の「性格」を捉える際に提唱された区分です。本人の内面に存在する（と本人が信じている）固有の性格を「内キャラ」と呼びます。これに対し、周囲の評価や期待に合わせて、あるいはその場の状況に適応するために、半ば意図的に演じられる振る舞いや性格を「外キャラ」と呼びます。コミュニケーションにおける「キャラ」の概念をより深く理解するための視点を提供しています。

著書

単著

『非行少年の消滅 - 個性神話と少年犯罪』（信山社出版、2003年）
『「個性」を煽られる子どもたち - 親密圏の変容を考える』（岩波書店<岩波ブックレット633>、2004年）
『友だち地獄 - 「空気を読む」世代のサバイバル』（筑摩書房<ちくま新書710>、2008年）
『キャラ化する/される子どもたち - 排除型社会における新たな人間像』（岩波書店<岩波ブックレット759>、2009年）
『人間失格？ - 「罪」を犯した少年と社会をつなぐ』（日本図書センター、2010年）
『若者の気分 - 少年犯罪〈減少〉のパラドクス』（岩波書店、2012年）
『つながりを煽られる子どもたち - ネット依存といじめ問題を考える』（岩波書店<岩波ブックレット903>、2014年）

共編著

『社会構築主義のスペクトラム - パースペクティブの現在と可能性』（中河伸俊、北沢毅と共編）（ナカニシヤ出版、2001年）
『「若者の現在」労働』（小谷敏、芳賀学、浅野智彦と共編）（日本図書センター、2010年）
* 『「若者の現在」政治』（小谷敏、芳賀学、浅野智彦と共編）（日本図書センター、2011年）

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