土倉龍治郎

土倉龍治郎：近代日本の先駆者

土倉龍治郎（どくら りゅうじろう）は、1870年（明治3年）に奈良県吉野郡川上村で生まれ、1938年（昭和13年）に68歳で生涯を閉じた実業家です。彼の功績は多岐にわたり、台湾における林業や水力発電事業、帰国後のカーネーション栽培、そしてカルピス創業への貢献などが挙げられます。

台湾での活躍

同志社普通学校を卒業後、龍治郎は台湾に渡り、日本統治下の台湾において林業と樟脳採取事業で成功を収めました。特に注目すべきは、台湾で初めてとなる水力発電会社を設立したことです。彼は1万ヘクタールもの広大な山林を300年間租借し、森林開発を積極的に行いました。樟脳事業においては、台湾製脳合名会社を設立し、大規模な生産体制を構築。450基もの製脳窯を擁し、2,000人以上の従業員を抱えるほどに成長させました。

龍治郎が社長を務めた台北電気は、台湾初の電力会社でしたが、建設中の水力発電所（亀山発電所）は総督府によって官営化されました。官営化後に完成した亀山発電所は、当時としては画期的な660馬力という出力を誇りました。台湾では龍治郎は「水力発電の父」「近代林業の父」「樟脳事業の父」として知られています。

新島襄との関わり

龍治郎の父、土倉庄三郎は明治期の林業家であり、自由民権運動のパトロンとして知られていました。彼は板垣退助らの活動を支援し、新島襄や成瀬仁蔵の教育理念に共鳴し、同志社大学や日本女子大学の設立に物心両面で貢献しました。龍治郎もまた、同志社で学び、創立者の新島襄から薫陶を受けました。新島は父・庄三郎を厚く信頼し、龍治郎の才能も高く評価していました。

カーネーションの父

1909年（明治42年）、龍治郎は土倉本家の要請により事業を三井物産に譲渡し帰国。翌年からカーネーションの栽培を開始しました。当時、日本には既にカーネーションが伝来していましたが、本格的な栽培技術は確立されていませんでした。龍治郎は近代的栽培技術と体制を構築し、新たな品種を導入することで、日本にカーネーションを定着させました。この功績から、彼は「カーネーションの父」と呼ばれるようになりました。犬塚卓一と共に1936年（昭和11年）に名著「カーネーションの研究」（修教社書院）を上梓しています。

カルピス創業への貢献

龍治郎は、カルピス創業にも深く関わっています。カルピス創業者の三島海雲は、中国北京で龍治郎の弟、土倉五郎と出会い親交を深めました。その後、三島は龍治郎の姉から資金援助を受け、事業を始めますが、辛亥革命によって無一文となり帰国。龍治郎を頼った三島に対し、龍治郎は惜しみない支援を行いました。

三島は龍治郎を「親のように」「親代わり」と表現し、土倉一族を恩人として深く感謝していました。三島は蒙古での体験から乳酸菌を利用した食品の製造販売を構想し、龍治郎に会社設立を懇願。龍治郎はこれに応え、カルピスの前身である「ラクトー製造株式会社」を設立しました。試行錯誤の末、偶然から生まれたカルピスは、龍治郎の進言によって商品化され、大成功を収めました。

親族

龍治郎の長男はカルピス食品工業の元社長・会長を務めた土倉冨士雄、末男は木村化工機の元社長である土倉正雄です。義兄には第百国立銀行・横浜正金銀行頭取などを務めた原六郎、義弟には外務大臣を務めた内田康哉などがいます。一族は政財界に多くの人材を輩出しました。

土倉龍治郎は、日本の近代化に大きく貢献した先駆者の一人として、その功績は永く記憶されるでしょう。

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