原六郎

原六郎：幕末から大正期を駆け抜けた多才な人物

原六郎（1842-1933）は、兵庫県朝来市出身の幕末から大正期にかけて活躍した、稀代のマルチな人物でした。志士として尊皇攘夷運動に関わり、軍人として戊辰戦争を戦い抜き、さらに銀行家、実業家として日本の近代化に大きく貢献しました。その波乱に満ちた生涯と多大な功績は、日本の歴史に鮮やかな足跡を残しています。

生い立ちと志士としての活動

鎌倉時代から続く名家、進藤家の出身である原六郎は、幼少期より池田草庵の私塾・青谿書院で学び、北垣国道らと共に研鑽を積みました。尊皇攘夷の思想に傾倒し、文久3年（1863年）には生野の変に参加。武器調達のため京都に滞在中、池内蔵太らと出会い、天誅組の動向も知ることになります。生野の変の敗戦後、潜伏生活を送る中で「原六郎」と改名。その後、京、江戸を転々とし、鳥取藩士らの庇護を受けながら、坂本龍馬らとも交流を深めました。

戊辰戦争と明治政府への貢献

元治元年（1864年）、長州藩に身を寄せ、慶応元年（1865年）には高杉晋作の配下として四境戦争に参加。その後、明倫館で洋式軍事訓練を受け、戊辰戦争では鳥取藩に属する山国隊の司令官として活躍しました。上野戦争や箱館戦争といった激戦を戦い抜き、その功績は高く評価されました。明治政府成立後も、鳥取藩兵の洋式化に尽力し、第1回天覧閲兵式に参加するなど、軍人としての経歴も華々しいものでした。

海外留学と金融界での活躍

明治4年（1871年）、政府の海外留学制度を利用して渡米。しかし、短期留学では満足せず、アメリカに残り、イェール大学で経済学・金融学を学びました。その後イギリスに渡り、キングス・カレッジで経済学、社会学、銀行学を修めた後、明治10年（1877年）に帰国しました。帰国後は、日本の経済発展に貢献すべく、金融界に転身します。

第百国立銀行頭取、東京貯蔵銀行頭取などを歴任した後、明治16年（1883年）、経営危機に陥っていた横浜正金銀行の頭取に就任。不良債権処理や資本金増資、業務特化など、大胆な改革を断行し、見事、銀行を立て直しました。その手腕は「横浜正金銀行中興の祖」と称賛され、日本の金融界に大きな足跡を残しました。

実業家としての多様な活動

横浜正金銀行の再建以外にも、日本興業銀行、台湾銀行、勧業銀行などの設立にも関わり、富士製紙、横浜船渠、東武鉄道など数々の企業の経営にも参画しました。その活動範囲は、金融業にとどまらず、鉄道、電力、製紙など多岐にわたっており、日本の近代産業の発展に貢献しました。

さらに、理化学研究所設立にも多額の寄付を行い、国産の先端科学技術研究・教育の充実にも尽力しました。渋沢栄一、安田善次郎、大倉喜八郎、古河市兵衛らと共に「五人男」と呼ばれ、実業界において大きな影響力を持つ存在でした。

晩年と故郷への貢献

大正9年（1920年）に第一線から退くと、故郷への貢献に力を注ぎました。地元の小学校に講堂兼体育館を寄付、生野の変で戦死した同志を祀る招魂社の建立にも尽力しました。晩年には妻と共にキリスト教の洗礼を受け、昭和8年（1933年）に没しました。その旧邸跡は、現在、原美術館と御殿山トラストシティとなっています。

人となり

原六郎は、志士としての気概、軍人としての勇気、銀行家・実業家としての才覚を兼ね備えた人物でした。困難な状況にもめげず、常に前向きに未来を切り開こうとする強い意志を持ち、多くの人々から尊敬を集めました。坂本龍馬や新島襄など、時代を代表する人物たちとの交流を通して、多大な影響を受け、自身もまた、時代を動かす大きな力となったのです。その生涯は、日本の近代化を推進したキーパーソンの一人としての物語であり、現代に生きる私たちに多くの示唆を与えてくれます。

もう一度検索