土木の変

土木の変：明朝の転換点

土木の変（どぼくのへん）は、1449年、明朝とオイラトとの間で起きた大規模な戦いです。この戦いは、明の皇帝である正統帝（英宗）がオイラト軍に捕らえられたという、中国史上類を見ない事件として知られています。この事件は、明朝の政治、軍事、外交に大きな影響を与え、その後の歴史の流れを大きく変える転換点となりました。

戦いの背景

オイラトは、遊牧民の国家であり、その経済は交易に大きく依存していました。特に中国からの物資は不可欠であり、明との間では朝貢貿易が行われていました。朝貢貿易では、使節団の人数に応じて下賜品が与えられるため、オイラトは使節団の人数を増やそうとしました。しかし、明は使節団の人数を制限し、さらに下賜品の額を減額したため、オイラトとの関係が悪化しました。

オイラトの指導者であるエセンは、明の政策転換が自らの勢力拡大を妨げると考え、軍事力で明に圧力をかけようとしました。また、明がエセンとの婚姻の申し出を拒絶したことも、エセンの怒りを買い、開戦のきっかけとなりました。

戦いの経過

1449年7月、エセンは明領に侵攻し、明の正統帝は親征を決意しました。しかし、明軍の総司令官となったのは宦官の王振であり、軍事の専門家ではありませんでした。明軍は豪雨による泥濘や食糧不足に苦しみ、士気は低下していました。さらに、王振の独断専行が軍内部の混乱を招きました。

8月13日、オイラト軍は撤退する明軍を追撃し、明軍は土木堡に到着しました。土木堡は水源に乏しく、防御にも適さない場所であり、明軍は飲料水不足に苦しみました。8月15日、オイラト軍は明軍を包囲し、攻撃を仕掛けました。明軍は疲弊し、内部でも分裂していたため、大敗を喫しました。正統帝は捕虜となり、王振は戦死しました。

北京防衛戦

正統帝が捕らえられたという知らせが北京に届くと、朝廷は動揺しました。しかし、兵部尚書の于謙らが朱祁鈺（景泰帝）を擁立し、人心を落ち着かせました。また、王振の財産は没収され、甥の王山は処刑されました。

10月、オイラト軍は正統帝を人質に北京を攻撃しましたが、于謙を中心とした明軍は北京を守り抜き、オイラト軍は撤退しました。その後、明朝はオイラトと和平交渉を行い、1450年に正統帝は無条件で釈放され帰国しました。

その後の影響

土木の変は、明朝に大きな影響を与えました。明は北方の遊牧民に対する影響力を失い、交易も衰退しました。また、皇帝が捕虜になったという事実は、明朝の権威を大きく傷つけました。

この戦いは、明朝が守勢に回るきっかけとなり、その後の100年以上にわたり、モンゴル高原の遊牧民の侵攻に悩まされることになりました。

土木の変は、中国史における重要な転換点であり、その後の明朝の衰退を招いた一因となりました。また、この戦いは、軍事的無能や政治腐敗が国家に与える影響を如実に示す事例としても、歴史に刻まれています。

土木の変後の政変と英宗の復位

帰国した英宗は、弟の景泰帝によって幽閉されました。しかし、1457年に起きたクーデター（奪門の変）によって再び皇帝に復位し、景泰帝を擁立した于謙らは処刑されました。この事件は、明朝の政治的混乱をさらに深めました。

エセンの最期

土木の変で明に勝利したエセンですが、その後、モンゴルのハーンを殺害し、自らハーンを名乗ります。しかし、翌年には部下に殺害され、その勢力は短期間で崩壊しました。

交易の衰退と影響

土木の変後、明と北方民族の交易は衰退しました。これは、日本にも影響を与え、アイヌが鉄製品の入手が困難になったことが、コシャマインの戦いの原因の一つになったとも言われています。

土木の変は、単なる戦いにとどまらず、政治、経済、社会に大きな影響を与えた歴史的な出来事でした。

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