在コロンビア ドミニカ共和国大使館占拠事件

在コロンビア・ドミニカ共和国大使館占拠事件の概要

1980年2月27日、コロンビアの首都ボゴタにあるドミニカ共和国大使館が、ゲリラ組織「4月19日運動（M-19）」によって占拠されるという衝撃的な事件が発生しました。この事件は、コロンビアの政治的背景とゲリラ組織の活動が複雑に絡み合って起きたもので、国際社会にも大きな影響を与えました。

事件の背景

コロンビアは、1950年代から政治的な混乱が続いていました。1970年の大統領選挙では、軍政時代の指導者であったグスタボ・ロハス・ピニージャ将軍が優勢でしたが、不正選挙によって敗北。その後、国民戦線体制が終了し民政移管となりましたが、これに不満を持つ人々がゲリラ組織M-19を結成し、反米と民族主義を掲げて政府に対して激しい武力闘争を展開しました。

M-19は、1978年に「青いクジラ作戦」と呼ばれる大規模な武器強奪作戦を実行。国防省の地下にトンネルを掘り、5700丁ものライフルを盗み出すという大胆な行動に出ました。これに対し、当時のフリオ・セサル・トゥルバイ・アヤラ大統領は悪名高い治安法を発動し、M-19に対する徹底的な弾圧を行いました。しかし、この弾圧は深刻な人権侵害を引き起こし、社会の不満をさらに増大させることとなりました。

事件の舞台となったドミニカ共和国大使館は、かつてグスタボ・ロハス・ピニージャ将軍の邸宅でした。大使館には秘密のトンネルがあるという噂があり、ゲリラが人質とともに脱出するために利用する計画があったとも言われています。

事件の経過

1980年2月27日、ドミニカ共和国の独立記念日を祝うパーティーが開催され、多く外交官が出席していました。M-19は、このパーティーを狙って大使館を襲撃しました。当初の目標は日本大使館でしたが、警備上の問題からドミニカ共和国大使館に変更したと言われています。

ローゼンベルグ・パボン率いるM-19の決死隊は、パーティーの招待客を装って大使館に侵入。銃を発砲し、大使館を占拠しました。銃撃戦で犯人の女性1人が死亡、ベネズエラ大使も負傷しました。ゲリラは人道的措置として、負傷したパラグアイの副領事や子供、女性などを解放しました。

コロンビア軍は大使館を包囲し、ゲリラとの間で膠着状態が続きました。ウルグアイの大使は自力で大使館から脱出に成功しています。

交渉と人質解放

事件発生から4日後、政府とゲリラとの間で交渉が開始されました。交渉は難航しましたが、米州機構（OAS）人権委員会の仲介もあり、最終的にゲリラが人質を連れてキューバに出国することで合意しました。身代金はイスラエル政府が支払うこととなり、政治犯の釈放は見送られましたが、恩赦が適用されることになりました。

事件は52日間の膠着状態を経て、4月27日に終結。ゲリラは人質とともにキューバに到着し、人質は全員解放されました。

事件の影響とその後

ローゼンベルグ・パボンはキューバに滞在後、コロンビアに再上陸しましたが逮捕され、後に恩赦で釈放されました。彼は、政府が軍事的解決を選ばなかったことが、事件の悲劇的な結末を回避したと語っています。

カルメンサ・カルドナ・ロンドニョは、事件後コロンビア国軍との戦闘で死亡したとされています。

事件から20年後の2000年には、この事件を題材とした映画『大使館の奪取』が公開され、事件の記憶を後世に伝えています。

在コロンビア・ドミニカ共和国大使館占拠事件は、コロンビアの政治的混乱とゲリラ組織の活動がもたらした悲劇的な事件でした。事件は多くの人々に影響を与え、その記憶は映画などを通して今も語り継がれています。

もう一度検索