坐漁荘

坐漁荘：元老・西園寺公望の隠棲の地、激動の政治舞台

坐漁荘（ざぎょそう）は、大正から昭和にかけて日本の政治を動かした元老、西園寺公望が晩年を過ごした別邸です。1920年（大正9年）に静岡県庵原郡興津町（現在の静岡県静岡市清水区）に建てられました。

興津の地との出会い

西園寺公望は、1916年（大正5年）から興津の旅館、水口屋の勝間別荘で避寒するようになり、その地を気に入りました。そして、1919年（大正8年）9月に自らの別邸を竣工しました。建設費用は実弟である住友友純の住友家が全額負担し、同年12月に西園寺に提供されました。

別荘は後に「坐漁荘」と名付けられました。この名は、周の太公望呂尚が「茅に坐して漁した」という故事に由来します。西園寺は一年の四分の三をこの地で過ごし、夏は御殿場の別荘で避暑、東京府東京市神田区駿河台の本邸に入るのは、東京に政治的な用事があるときだけでした。

坐漁荘の構造と特徴

坐漁荘は、300坪の敷地に京風数寄屋造り二階建ての建物と、執事室、警備の詰め所、倉庫などが配置されています。五・一五事件の後には、万が一の際の避難用として、鉄筋コンクリート造りの書庫も建設されました。門は瀟洒な編み竹扉で、一見すると小料理屋と間違われることもあったそうです。

一階には八畳間が二つ並び、西園寺はそこで生活していました。二階は客間として用いられました。外観は質素ですが、木材は上質なものが使われ、外壁はヒノキの皮で葺かれていました。

警備主任は地元警察の警部が執事も兼務していましたが、1922年（大正11年）からは専任の執事として熊谷八十三が雇用されました。熊谷は農業技師でもあり、坐漁荘や京都の清風荘の庭の手入れも行っていました。

政治の中枢としての坐漁荘

西園寺公望は最後の元老であり、日本の政治において重要な役割を果たしていました。そのため、坐漁荘は大正から昭和にかけての激動の時代において、数々の政治的局面で注目される舞台となりました。当時の政界の中枢人物が頻繁に坐漁荘を訪れ、重要な会談が行われました。その一方で、西園寺の暗殺を企む者が現れることもあり、厳重な警備体制が敷かれていました。

坐漁荘のその後

1940年（昭和15年）に西園寺公望が亡くなった後、坐漁荘は西園寺家より高松宮宣仁親王に譲渡されました。太平洋戦争後には、宣仁親王の義弟にあたる徳川慶光が一時的に居住しましたが、その後再び西園寺家の所有に戻っています。

建物の老朽化が進んだため、1968年（昭和43年）に博物館明治村への移築が決定し、1970年（昭和45年）から明治村で一般公開が始まりました。2003年（平成15年）には登録有形文化財に登録され、2017年（平成29年）には数寄屋造住宅の貴重な現存例として、重要文化財に指定されました。

現在、静岡市清水区興津清見寺町には、2004年（平成16年）に復元された「興津坐漁荘」があり、一般公開されています。

坐漁荘は、激動の時代を生き抜いた元老の隠棲の地であるとともに、日本の政治史における重要な舞台として、その名を刻んでいます。

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