城内平和

城内平和：第一次世界大戦下の挙国一致体制

城内平和（じょうないへいわ、独: Burgfrieden / Burgfriedenspolitik）とは、第一次世界大戦中にヨーロッパ各国、特にドイツにおいて見られた現象です。これは、社会民主主義政党を中心とする野党と政府の政争、労働者と資本家の階級対立が一時的に停止され、戦争遂行のために協力関係が結ばれた状態、またはその政策を指します。原語の「ブルクフリーデン」は、中世ドイツの法における「城壁内での私闘禁止」を意味する言葉に由来します。

城内平和に至る経緯

20世紀初頭、ヨーロッパの社会主義者たちは、列強間の戦争を国際的な共同行動によって阻止しようと試みていました。1912年には第二インターナショナルの臨時大会が開かれ、開戦時には各国の社会主義政党が「帝国主義戦争」への反対闘争を決行するという反戦宣言を決議しました。しかし、第一次世界大戦が勃発すると、ドイツ、フランス、イギリスなどの社会主義政党は、自国政府の戦争遂行政策を支持し、大戦期間中の政治的休戦を取り決めたのです。これにより、第二インターナショナルは機能停止に陥り、事実上崩壊しました。

特にドイツでは、「城内平和」政策に基づき、労働組合はストライキを自粛し、社会民主党は議会で政府の戦時公債発行案に賛成しました。また、各政党は政府およびその戦争遂行政策に対する批判を控える協定を結びました。ヨハン・プレンゲやパウル・レンシュらは、「戦争社会主義」「民族共同体」「国家社会主義」といった概念を用いてこの状況を正当化しました。

社会民主党が戦争協力に傾いた背景には、党員や議員の間に愛国的気分が広範に浸透していたこと、敵国ロシアのツァーリズムが勢力を拡大することへの脅威、そして戦争協力と引き換えに国内の民主化が進展し、大戦後の党勢拡大を期待したことなどが挙げられます。フランスでは「ユニオン・サクレ（神聖なる同盟）」、イギリスでも労働党が政府の戦時公債案・新兵募集に賛成するなど、同様の協力体制が見られました。

城内平和への異議

しかし、交戦国の社会主義者の中には、政治的休戦や戦争協力政策に反対する人々も存在しました。ドイツでは、カール・リープクネヒトやローザ・ルクセンブルクらが反戦的な立場を貫き、スパルタクス団を結成して「城内平和」派に反旗を翻しました。また、「城内平和」政策は労働者の地位向上をある程度実現したものの、大戦の進行に伴う国内経済の逼迫により労資の対立は激化し、反戦派への支持が拡大しました。

1915年には、第二インターナショナルに加盟していた中立国の代表と交戦国の反戦少数派がツィンマーヴァルト会議を開催し、インターナショナルの再建を協議しました。

城内平和の影響

各国の社会主義政党における「城内平和」政策は、第二インターナショナルの崩壊とともに、党内の対立を激化させました。これは、大戦後の国際社会主義運動の分裂（第二インターナショナルとコミンテルン）と、各国の社会民主党と共産党の分裂を招く遠因となりました。

社会経済史的に見ると、「城内平和」政策によってドイツ政府は、総力戦を遂行する上で労働者や社会主義者の協力を得るため、社会政策を通じて労働者の地位向上に努めました。これは、労働者の階級意識を形成し、大戦後の国内政治に大きな影響を与えたと考えられています。ヴァイマル共和国期には、労働者勢力の伸張に直面した政府が、革命運動を回避するために労働者の社会的要求を政治に取り入れ、福祉国家政策を推進しました。しかし、これに対し、「城内平和」政策は労働者の生活を圧迫し、彼らが大戦前に獲得していた権利を奪い、その地位を著しく低下させたため、労働者の不満が反戦意識の高まりにつながったとする見解もあります。

一般的な用法

現在では、「城内平和」という言葉は、第一次世界大戦の歴史的背景から離れ、「外敵」や外からの脅威を前にして、内輪もめをやめて一致団結するという意味で用いられることがあります。この場合、挙国一致体制と類似した意味を持ちますが、「挙国一致」は大恐慌や政党内閣の崩壊など国内的な危機への対応も含む点で、「城内平和」とは若干意味が異なります。また、左翼的な文脈では、「外敵を作り出すことによって内部の団結を固め、反対派を弾圧する」という否定的な意味合いで用いられることもあります。

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