埴輪 挂甲武人

埴輪 挂甲武人：古墳時代の武人像

『埴輪 挂甲武人』は、東京国立博物館が所蔵する古墳時代（6世紀）の人物埴輪であり、日本を代表する考古遺物の一つです。甲冑を身に着け、武装した姿は当時の武人の姿を鮮やかに伝えています。ここでは、その特徴や背景、文化的意義について詳しく解説します。

概要

• - 名称: 埴輪 挂甲武人（東京国立博物館での展示資料名）
• - 国宝指定名称: 埴輪武装男子立像
• - 別名: 挂甲の武人、武装人物埴輪、武人埴輪
• - 出土地: 群馬県太田市飯塚町（長良神社境内）
• - 指定: 重要文化財（1958年）、国宝（1974年）

この埴輪は、古墳時代の武人が身につけていた甲冑や武器を忠実に再現しており、当時の社会や文化を知る上で非常に重要な資料です。2017年から2019年にかけては、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの助成金を受け、解体修理が行われました。

特徴

『埴輪 挂甲武人』は、高さ130.5センチメートルの全身立像で、甲冑を身に着け、大刀と弓矢を持つ完全武装の人物を表しています。全身には彩色が施されていたと考えられています。

• - 頭部: 衝角付冑（しょうかくつきかぶと）と呼ばれる特徴的な兜を被っています。頬当（ほおあて）と錣（しころ）も付属しています。
• - 胴体: 小札甲（こざねよろい）を着用。身体の前面で引き合わせる構造で、草摺（くさずり）と一体化しています。
• - 四肢: 膝には佩楯（はいだて）、脛には臑当（すねあて）を装着。肩には肩甲（かたよろい）、腕には籠手（こて）をつけています。
• - 武器: 左手に長弓を持ち、右手は大刀の柄にかけられています。背中には鏃（やじり）を上にした靫（ゆき）を背負っています。

甲の着装は紐を結んで行われており、正面と背面には蝶結びが10箇所に及んでいます。小札甲は右衽（うじん、みぎまえ）となるように結び、膝甲と臑当は後方で紐を結んでいます。

衝角付冑について

装着している冑は、船の舳先のように前方部が突出した衝角付冑です。これは、5世紀以降に隆盛したもので、大陸系の甲冑技術と意匠を取り入れた6世紀代の特徴を示しています。同様の冑は、金鈴塚古墳や山王金冠塚古墳などからも出土しています。

甲冑について

身に着けている甲冑は、東アジア地域で普及した小札甲です。騎乗にも適しており、当時の最新の技術が用いられています。弓と大刀、靫を組み合わせた武装は、弥生時代以来の伝統的な日本の武人の姿を表しています。

他の武人埴輪との比較

『埴輪 挂甲武人』は、他の武人埴輪と比較しても大ぶりで精巧な作りが特徴です。特に、本埴輪が出土した太田市周辺では、同様の特色を持つ優れた武人埴輪が複数出土しており、この地域に埴輪製作集団が存在したと考えられています。

文化史的意義

塚田良道氏の研究によれば、これらの武装した埴輪は、首長層を守る近習や警護の人物を表していると考えられています。腰に佩用した大刀の鞘を押さえたり、刀に手をかけたりする所作は、彼らの職務を表していると言えるでしょう。

用語の問題

現在、考古学界では小札を縅した甲を「挂甲」と呼ぶことが一般的ですが、「挂甲」は本来、奈良・平安時代の甲冑名称であり、古墳時代の甲を指すのは誤用であるという批判もあります。より正確には、「胴丸式挂甲」と呼ぶべきであるという意見もあります。

社会との関わり

『埴輪 挂甲武人』は、長らく埴輪として唯一の国宝指定資料であり、東京国立博物館の『埴輪 踊る人々』と並んで高い知名度を誇っています。過去には切手のデザインに採用されたり、NHKのキャラクター「はに丸」のモデルになったりするなど、社会に広く親しまれています。また、映画『大魔神』のモデルにもなりました。

『埴輪 挂甲武人』は、単なる考古遺物としてだけでなく、日本の歴史や文化を象徴する存在として、これからも大切にされていくことでしょう。

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