塩の道 (日本)

塩の道：暮らしを支えた古道

塩の道とは、かつて海で採取された塩や海産物を内陸へ、逆に内陸からは山の幸を運ぶために使われた道のことです。特に日本では、製塩が海辺で行われていたため、各地に海と山を結ぶように塩の道が形成されました。

塩の道の概要

日本の塩の道は、中部地方を中心に数多く存在しました。代表的なものとしては、日本海側の姫川沿いを通り糸魚川と塩尻を結ぶ千国街道、太平洋側の天竜川沿いを通り御前崎と塩尻を結ぶ秋葉街道、岡崎と塩尻を結ぶ三州街道などがあります。

これらの道は、単なる物資の輸送路としてだけでなく、人々の生活を支える重要な役割を果たしていました。特に、雪深い内陸地域では、冬場の保存食として漬物や味噌が欠かせず、塩は生活必需品だったため、塩の道は重要な生活路だったのです。

また、街道沿いの宿場町やその周辺は、藩によって重点的に開発が行われることもありました。

塩の道の風景

塩の道沿いには、宿場町、城下町、神社、寺院などの歴史的な建造物が点在しています。また、当時の道標、道祖神、二十三夜塔、庚申塔、馬頭観音・牛頭観音、塩倉などの史跡も残されており、往時の面影を偲ぶことができます。

長野県小谷村千国には、塩倉や番所が復元されており、当時の様子を知ることができます。また、周辺の自然はジオパークとして整備され、地域振興に活用されています。

主な塩の道

千国街道

千国街道は、新潟県糸魚川から長野県大町・安曇野を経て松本盆地の松本・塩尻に至る道筋です。江戸時代には、松本藩が日本海産の塩を運ばせた主要ルートでした。現在、千国街道にあたる道筋は国道147号と国道148号になっており、JR大糸線が並行して走っています。

小谷村・白馬村・大町市では、毎年5月初旬に「塩の道祭り」が開催され、昔の旅姿に扮した地元住人が観光客とともに千国街道を歩きます。

三州街道

三州街道は、愛知県足助から長野県伊那谷を通って塩尻に到達する街道です。三州街道にあたる道筋は、ほぼ現在の国道153号になっており、飯田 - 塩尻間でJR飯田線が並行して走っています。

足助から岡崎の間は「足助街道」と呼ばれ、三河湾で取れた塩を矢作川とその支流の巴川を舟で足助まで運び、そこから馬で信州まで運ぶ「塩の道」でした。足助は中馬の拠点として栄え、伊那地方では「足助塩」と呼ばれていました。

秋葉街道

秋葉街道は、遠州の相良から信州の塩尻を結ぶ約200kmのルートです。静岡県菊川市には「塩買坂」、掛川市には「塩町」など、塩にちなむ地名が残っています。終点の塩尻は、相良から運ばれてきた塩の終着点を意味しています。

北国街道

北国街道は、新潟県上越市直江津から長野県上田を経て、中山道追分宿に達する道筋です。上田市にも塩の道の終着地を意味する「塩尻」の地名が残っています。

敵に塩を送る

「敵に塩を送る」という故事成語は、戦国時代の戦いで、武田信玄の領地である甲斐・信濃への塩の流通が止まった際に、上杉謙信が塩を送ったという話に由来します。この塩が運ばれたのが千国街道であると言われています。

まとめ

塩の道は、単なる物資の輸送路としてだけでなく、人々の生活を支え、地域の文化を育んだ重要な道でした。今も各地に残る塩の道を訪れることで、当時の人々の暮らしや文化に触れることができます。

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