千国街道

千国街道

千国街道は、長野県松本市から新潟県糸魚川市に至る、全長約120キロメートルの歴史的な街道です。その名は、街道沿いの宿場町の一つである千国宿（現在の小谷村）に由来します。この街道は、糸魚川街道、安曇野街道、松本街道など、沿線の地名にちなんだ様々な別名でも知られています。

地理

千国街道は、現在の国道147号（松本市～大町市）と国道148号（大町市～糸魚川市）、そして大糸線（松本駅～糸魚川駅）とほぼ並行しています。しかし、姫川の急峻な渓谷を避けるため、長野・新潟県境付近では山岳地帯を通る区間も存在します。2002年には「松本街道」として国史跡に指定され、その後追加指定も行われています。

短絡路

千国街道を通じて運ばれる塩は、糸魚川の問屋によって事実上支配されており、信州側では価格や品質に不満がありました。そのため、信州の有力者たちは糸魚川を経由しない短絡路の建設を模索し続けました。1880年には、大町から立山を越えて富山に至る立山新道が開通しましたが、厳しい地形と気象条件のため、わずか2シーズンで廃道となりました。実際には、糸魚川周辺の地塩よりも、瀬戸内海の赤穂や備中産の塩が多く流通していました。

歴史

千国街道は、信濃国（現在の長野県）と越後国（現在の新潟県）を結ぶ塩の道として、古代から利用されてきました。室町時代の文書にも「千国大道」として記録されており、戦国時代には「敵に塩を送る」という故事にも関連して、重要な塩の輸送路として認識されていました。江戸時代には、松本藩が北塩（糸魚川側の塩）の流通のみを認めたため、荷役牛や馬による運搬を容易にするため、街道の整備が行われました。街道には、大名行列のための本陣は存在しませんでしたが、小谷村側には千国番所、糸魚川市側には山口関所などの機関が設置されました。「南馬北牛」という言葉があり、千国番所を境に南側では馬、北側では牛を使って荷物を輸送していました。宝暦13年の報告書には、糸魚川へは牛で荷物を運び、松本へは牛と馬で往来していたこと、糸魚川へ煙草、紙、油粕、大豆などを送り、帰りに塩などを購入していたことが記されています。

明治時代に入ると、鉄道の発達により千国街道の重要性は低下しました。1888年には信越本線が、1902年には篠ノ井線がそれぞれ開通し、鉄道による大量輸送が可能になりました。1890年代には長野県による道路改修事業が行われ、千国街道もその対象となりました。新道の建設が進む一方で、旧道は急速に廃れていきましたが、20世紀後半になると、旧道区間の文化的な価値が見直され、トレッキングコースとして利用されるようになり、再び注目を集めています。

現在では、毎年5月には糸魚川市で「糸魚川塩の道・起点祭り」、小谷村、白馬村、大町市で「塩の道祭り」が開催されています。

宿場

千国街道には、多くの宿場町がありました。主な宿場としては、以下のようなものが挙げられます。

松本宿
安曇野宿
大町宿
千国宿
* 糸魚川宿

これらの宿場町は、旅人の休息や物資の集散地として賑わっていました。

文化

街道沿いには、人や物資の往来とともに、多くの神社仏閣、道祖神、石仏などが建立されました。特に、安曇野の穂高神社、仁科神明宮、若一王子神社への参詣路として重要視されました。また、千国街道から西山地域を越えて善光寺に至る道も、西国からの参詣路として利用されました。これらの信仰の場や史跡は、現代でも保存されています。また、塩の道資料館（糸魚川市根知）、千国の庄史料館（小谷村千国）、塩の道博物館（大町市）などの資料館で、当時の文化や風俗に関する資料が展示・伝承されています。

災害

千国街道は、糸魚川-静岡構造線に並行しているため、地質が脆弱で地形が急峻です。そのため、過去には雪崩や山腹崩壊、地すべりなどの土砂災害が発生しました。1824年には戸倉山山麓の歩荷宿が雪崩で倒壊し、多数の死者が出ました。20世紀末にも7.11水害により、土石流が発生し、街道の一部が寸断されました。

千国街道は、単なる移動路ではなく、文化と歴史が織りなす道です。その痕跡は、現代にも静かに語りかけています。

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