塩原多助一代記

塩原多助一代記

『塩原多助一代記』は、初代三遊亭圓朝によって創作された落語・人情噺です。明治11年（1878年）に発表され、実在の人物である塩原太助をモデルにした物語です。この物語は、貧困から身を立て、成功を収めるという立身出世の要素を含んでいます。

創作の背景

圓朝は当初、自身の得意とする怪談噺の新作として本作を構想していました。明治9年（1876年）に蒔絵師の柴田是真に取材した際、塩原家の没落にまつわる怪談に興味を持ちましたが、後に初代多助が貧困を克服し、名を成したという立身美談に感銘を受け、この物語を創作することにしたとされています。また、経師屋の障子に描かれた轡の紋を見たことが、多助の一代記を調べるきっかけになったとも言われています。同年8月29日から9月14日には、多助の出身地である上州沼田市への取材旅行も行っています。

上演と普及

明治11年（1878年）に完成し、初演された『塩原多助一代記』は、その後、速記や歌舞伎の題材としても取り上げられ、広く人々に親しまれました。明治18年（1885年）には、若林玵蔵によって速記され、『塩原多助一代記』として刊行されました。明治24年（1891年）には、作者自身が井上馨邸で明治天皇の前で口演するという栄誉にも浴しています。さらに、明治25年（1892年）には歌舞伎座で上演され、五代目尾上菊五郎が多助を演じました。また、同年刊行の『尋常小学修身』をはじめ、多くの修身の教科書にも掲載され、道徳教育の教材としても活用されました。

物語の特徴

物語の中には、他の作品からの影響も指摘されています。炭屋に奉公する場面は、大岡政談の「越後伝吉」から、愛馬の青との別れは、河竹黙阿弥の「齋藤内藏之助の馬の別れ」からヒントを得ていると言われています。また、『塩原多助一代記』は、わらしべ長者の系譜に位置づけられる物語としても捉えられています。これは、多助が様々な困難に遭いながらも、機転と努力で成功を掴み取る様子が、わらしべ長者の物語と共通する要素を持つためです。

近年の動向

近年では、桂歌丸がこの物語を得意とし、その口演は多くの人々を魅了しました。

まとめ

『塩原多助一代記』は、初代三遊亭圓朝によって創作された、実在の人物をモデルにした立身出世物語です。怪談噺として構想されたものが、人々の心を打つ人情噺として完成し、多くの人に愛される作品となりました。その物語は、道徳教育の教材にも採用され、今日でも多くの人に語り継がれています。

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