塩水くさび

塩水くさびについて

塩水くさび（えんすいくさび）は、河川や地下の帯水層に海水が遡上し、高い塩分濃度を持つ層を形成する現象です。この現象は主に河口付近で見られ、特に淡水と海水の密度の違いが大きく関与しています。

メカニズム

河口に近い河川では、川底の高さが海面よりも低いことがよくあります。このため、海水は自然に河川に侵入し、その際、海水は淡水よりも比重が大きいため、川の底近くに塩分濃度の高い層を形成します。断面図で見ると、川の底に海水が潜み、まるでくさびのような形状を成すことからこの名前が付けられました。

このくさびの大きさは、干潮時には小さく、満潮時には大きくなります。また河川の流入量によっても変動し、特に降雨による増水時には小さくなることがあります。塩水くさびが形成されるパラメーターは、塩分濃度と水位（圧力）が主な要因です。この現象は、河川内の酸素濃度（DO）にも影響を与えることが知られています。

河川の規模や構造によっても塩水くさびの大きさや形状は異なります。急流で狭い河口を持つ河川では、比較的小さい塩水くさびが形成されることが多いですが、広い河口を持つ緩やかな勾配の河川では、長大な層が形成されることもあります。その規模は、大河では100キロメートル以上上流に遡る例が報告されています。

具体例

例えば、岐阜県は海に面していませんが、その南端は木曽三川の河口から十数キロメートルの距離しかありません。この地域には海抜ゼロメートルの帯域が広がるため、海水が岐阜県にも達する可能性があります。また、浚渫によって川底が深くなることで塩水くさびが大きくなり、塩害の拡大が懸念されています。これに対応するために作られたのが長良川河口堰です。

汽水域では、川の水面から見下ろすと、上下に異なる魚類が混在して泳いでいる様子が観察できます。例えば、上層には淡水魚、下層には海水魚がおり、中には両方の層を行き来できる魚も存在します。このような境界線では、海水と淡水が異なる特性を示すため、揺らめいて見える現象が観察されることがあります。この現象は「ゆらゆら帯」と呼ばれることもあり、名古屋テレビの番組でこの名前が広まりました。

地下水への影響

海岸近くの地下水帯水層にも海水が浸入します。この帯水層での塩水くさびは、地下水の海への流出ポテンシャルと海水の浸入ポテンシャルのバランスによって、その範囲が定められます。

問題点と対策

塩分濃度が高い河川水が農業用水に混入することで、灌漑などにマイナスの影響を与えることがあります。対策としては堰を設置し、くさびの遡上を抑えることが考えられます。また、海岸平野での地下水の過剰利用により、地下水と海水のバランスが崩れ、地下水が塩水化する現象も報告されています。この範囲の拡大は地下水の塩水化と呼ばれ、地盤沈下と同様の公害とされています。この問題への対策としては、地下水の揚水量を制限したり、地下ダムを設置したりすることが行われています。

海面上昇の影響

地球温暖化による海面上昇では、塩水くさびが内陸へ拡大し、飲料水や工業用水の確保が難しい状況になると予測されています。海岸線が100メートル後退することで地下水の塩水化が進むため、より広範囲にわたってその影響が懸念されています。

塩水くさびは環境に大きな影響を与える現象であり、それに関連する問題に対しての適切な対策が求められています。

もう一度検索