売らいでか!

『売らいでか!』 は、岸宏子の小説『ある開花』を原作に、脚本家の花登筺が演劇として書き下ろした喜劇作品です。人間の欲望や打算、そして滑稽さを巧みに描き出し、発表以来、様々なメディアで展開され、多くの人々に親しまれてきました。

物語の舞台は、伊賀上野でも指折りの資産家である神代家。当主である里子は、二度の結婚相手に先立たれた未亡人です。財産は十分にありますが、彼女は孤独と満たされない思いを抱えて日々を送っていました。この状況に目をつけたのが、神代産業の副支配人である石上弘です。

神代家はホテル経営を含む観光事業への進出を計画しており、石上はこの機に乗じて神代産業の実権を掌握しようと企てます。その手始めとして、里子に取り入り、彼女の心を操るために、お抱え運転手の山内杉雄を里子に近づけます。

石上の思惑通り、里子は運転手である杉雄と関係を持つようになります。一方、夫の杉雄が里子と不貞行為に及んだことを知った妻のなつ枝は、夫への愛情に見切りをつけ、常識では考えられない行動に出ます。それは、里子に対して「夫を五十万円で買い取ってほしい」という驚くべき要求を突きつけることでした。この奇妙な「亭主売買」を中心に、登場人物たちの欲望、葛藤、そして喜劇的なやり取りが展開されていきます。

本作は、その人間臭くもどこか笑いを誘うドラマが人気を博し、演劇にとどまらず様々なメディアで映像化されています。

まず、1968年には映画化され、『喜劇 “夫”売ります!!』のタイトルで東映により公開されました。監督は瀬川昌治が務め、主要キャストとして山内杉雄役をフランキー堺、神代里子役を佐久間良子、そして山内なつ枝役を森光子が演じました。他の出演者には、安芸秀子、芦屋小雁、多々良純、川崎敬三、浦辺粂子らが名を連ねています。スタッフは原作に岸宏子と花登筐、脚色を池上金男と瀬川昌治が担当しました。

続いて、翌年の1969年にはテレビドラマとして日本テレビ系列局で放送されました。製作はよみうりテレビが担当し、全13話のモノクロ作品として、毎週水曜日の21時30分から放送されました。脚本は花登筐自身が手掛け、演出は小泉勲が担当しています。テレビドラマ版でも山内杉雄役はフランキー堺が続投し、神代里子役を草笛光子、山内なつ枝役を浜木綿子が演じました。この他、大村崑、安芸秀子、曾我廼家五郎八、小林勝彦、伴淳三郎など、多彩なキャストが出演しています。

そして、舞台版は東宝によって『新版 喜劇 売らいでか! -亭主売ります-』として繰り返し上演されています。中日劇場や博多座など、日本各地の主要な劇場や文化施設で公演が行われ、21世紀に入ってからも定期的に上演が続けられるなど、長寿作品としての地位を確立しています。

舞台版のキャストも豪華で、浜木綿子をはじめ、左とん平、井上順、加藤茶、正司花江、仁支川峰子、大空眞弓、大和悠河、山田まりやなど、時代に合わせて様々な俳優が参加しています。脚本は花登筐、演出は池田政之などが手掛けています。

映画、テレビドラマ、舞台と形を変えながらも、『売らいでか!』は、その独特な設定と人間ドラマで、時代を超えて観客を魅了し続けている喜劇の傑作と言えるでしょう。

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