変性 (医学)

変性（Degeneration）

変性とは、細胞や組織に見られる退行性の病変の一つであり、その機能が障害される状態を指します。この状態は、細胞や組織の内部または外部に、本来は存在しない物質が沈着したり、あるいは本来存在すべき物質が量や場所を逸脱して蓄積することで引き起こされます。変性は、原因や沈着する物質の種類によって様々な形態に分類されます。

主な変性の種類は以下の通りです。

水腫性変化（空胞変性）

細胞質に水分が増加し、やがて空胞が形成される病変です。これは細胞の体積が膨張する状態であり、水様変性とも呼ばれます。浸透圧性の腎疾患（浸透圧ネフローゼ）などで観察されることがあります。

タンパク変性

細胞や組織にタンパク質が異常に沈着する病変の総称です。いくつかのサブタイプがあります。

角質変性: 皮膚などで角化が過剰に亢進する状態を指します。
硝子滴変性: 細胞の内部、特に細胞質に微細なタンパク質の粒状構造物が出現する病変です。水銀中毒や特定の腎臓病（ネフローゼ症候群など）で見られます。
* ラッセル小体: 抗体を過剰に産生する形質細胞において、合成された免疫グロブリンが細胞内に凝集・沈着し、小体として観察される状態です。

粘液変性

細胞内に糖タンパク質である粘液物質が異常に沈着する病変です。特定の腺細胞などで見られます。

硝子様変性

結合組織に、均一で無構造なガラス状に見えるタンパク質性物質（硝子質）が沈着する病変です。古い瘢痕組織や、結核病変の慢性期、高血圧や多産を経た子宮の血管などで観察されることがあります。

アミロイド変性

異常なタンパク質であるアミロイド線維が細胞外に沈着する病変です。全身性のもの（原発性、続発性）や、特定の臓器に限局するもの（透析に関連するものなど）があります。コンゴ赤染色で特徴的な色調を示します。関節リウマチや結核、悪性腫瘍、多発性骨髄腫といった様々な基礎疾患に伴って発生することが知られています。

フィブリノイド変性

血管壁などの結合組織に、フィブリンを含むタンパク質性物質であるフィブリノイドが沈着する病変です。悪性高血圧や、全身性エリテマトーデス（SLE）、結節性多発動脈炎（PN）といった膠原病、その他の自己免疫疾患で見られる、炎症や組織損傷の指標となり得ます。

脂肪変性

細胞内に脂肪が異常に蓄積する病変です。肝臓で起こる脂肪肝や、血管壁に脂肪が沈着して動脈硬化の原因となる動脈粥状硬化症、四塩化炭素中毒など、様々な原因で発生します。

糖原変性

細胞内にグリコーゲンが異常に蓄積する病変です。糖尿病における腎臓や肝臓の細胞、あるいは遺伝性の糖原病、結核病変、肝硬変などで観察されることがあります。

病的石灰化

本来は石灰化しない組織に、リン酸カルシウムなどのカルシウム塩が沈着する病変です。パラトルモン、カルシトニン、ビタミンDなどのホルモン異常や代謝障害などが原因で起こり得ます。

尿酸沈着症

尿酸が組織に異常に沈着する病変です。尿酸の代謝障害により血中濃度が上昇することで起こり、関節などに沈着すると痛風を引き起こします。

色素沈着

組織に色素が異常に沈着する病変です。外部からの色素（例えば炭粉など）が原因の外来性色素沈着と、体内で産生される色素（メラニン、ヘモシデリン、ビリルビン、リポフスチンなど）が原因の内生性色素沈着があります。

これらの変性は、細胞や組織の障害の程度を示し、病気の診断や進行を理解する上で重要な病理学的変化です。

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