夏の終り (小説)

夏の終り

『夏の終り』（なつのおわり）は、日本の作家である瀬戸内寂聴が、出家前の「瀬戸内晴美」名義で発表した短編小説、および同作を表題作とする連作短編小説集です。また、この小説を原作として複数回映画化されています。

小説『夏の終り』

本作は、作者である瀬戸内寂聴自身の私生活における体験、特に恋愛関係を下敷きにして創作された自伝的な色彩の濃い作品として知られています。物語の主なテーマは、主人公である女性が、年上の既婚者である男性と、かつての愛人である年下の男性との間で揺れ動く複雑な感情と、その人間関係が織りなす葛藤を描いています。具体的には、年上の男性のモデルは作家の小田仁二郎、年下の男性のモデルは、瀬戸内が結婚生活を破綻させることになった相手、すなわち当時の夫の教え子であったとされています。

小説は1962年に発表されました。翌1963年には、『夏の終り』のほか、『あふれるもの』、『みれん』、『花冷え』、『雉子（きぎす）』を含む五つの短編を収めた連作短編小説集として刊行されました。この小説集は高い評価を受け、同年、女流文学賞を受賞しています。なお、収録作品のうち『雉子』のみは、主要な登場人物の名前が他の四編とは異なり、また描かれる関係性も三角関係ではなく、若くして別離した娘との関係性に焦点を当てています。

映画化作品

『夏の終り』はこれまでに二度映画化されています。

1963年版

小説集の刊行と同じ1963年に、『みれん』のタイトルで一度目の映画化が実現しました。千葉泰樹が監督を務め、池内淳子、仲代達矢、仲谷昇、乙羽信子、西村晃、沢村貞子、加東大介といった当時の著名な俳優たちが出演しました。

2013年版

二度目の映画化は、小説発表から50年後の2012年に製作され、2013年8月31日に公開されました。キャッチコピーは「だって、愛してるの。」でした。

概要

舞台は昭和20年代の東京。自立した生活を送る染色家の相澤知子が主人公です。知子は8年間にわたり、妻子を持つ作家、小杉慎吾と愛人関係を続けていました。知子自身も過去に夫と幼い娘を捨てて別の男性（涼太）と駆け落ちした過去がありましたが、その相手とは既に別れていました。物語は、かつての駆け落ち相手であった木下涼太が突然知子の元を訪れることから動き出します。

あらすじ

長年の愛人である作家、小杉慎吾との関係に終止符を打てずにいる主人公知子のもとに、かつての愛人である木下涼太が現れたことから、知子は二人の男性との間で深く葛藤することになります。慎吾の妻が二人の関係を知っていることを知りながらも、慎吾への執着を断ち切れない知子。一方で、再び関係を持った涼太は、知子が慎吾と別れられないことに苛立ちを募らせます。知子は涼太への感情を「憐憫」と突き放す一方で、自ら慎吾の本宅へ赴き、彼の妻に離婚を迫ろうとするほど、慎吾を独占したいという強い願望も抱いています。しかし、結局は関係を清算できないまま、知子は心機一転を図るべく転居を実行します。新たな生活を始め、「ここで確かなものを築く」と決意表明するものの、結局は小杉慎吾との逢瀬を続けてしまうのでした。自立した女性として生きようとしながらも、愛憎渦巻く人間関係の中で揺れ動き、自己矛盾を抱える主人公の姿が克明に描かれています。

キャスト

相澤知子 - 満島ひかり
木下涼太 - 綾野剛
小杉慎吾 - 小林薫
鞠子 - 赤沼夢羅
小杉ゆき - 安部聡子
知子の前夫 - 小市慢太郎

スタッフ

監督：熊切和嘉
脚本：宇治田隆史
音楽：ジム・オルーク
撮影：近藤龍人

ロケ地

主に兵庫県内で撮影が行われ、淡路島（洲本市、淡路市）、加古川市、神戸市、姫路市などが使用されました。

受賞

本作での演技により、木下涼太役の綾野剛が第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しています（『横道世之介』と合わせての受賞）。

瀬戸内寂聴の『夏の終り』は、発表から時を経てもなお、女性の愛と苦悩を描いた作品として読まれ続け、二度の映画化を通じて多くの人々に知られることとなりました。作者の初期を代表する重要な作品です。

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