夏目吉信

夏目吉信：徳川家康に仕えた忠義の武将

夏目吉信は、戦国時代を生き抜いた松平氏（後の徳川氏）の譜代家臣です。通称は次郎左衛門尉。信濃国伊那郡夏目村を起源とする夏目氏は、古くから松平氏に仕え、中先代の乱後、三河国幡豆郡六栗村（現在の愛知県額田郡幸田町）に拠点を築きました。

生い立ちと初期の活躍

永正15年（1518年）、夏目吉久の子として六栗村で生まれた吉信は、若くしてその才能を発揮します。南紀徳川史には、15歳の時に功績を挙げ、松平広忠から「広次」と名付けられたと記されています。永禄6年（1563年）には、三河・遠江両国の郡代に任命されるなど、着実に地位を築き上げていきました。三河長沢城攻めや三州八幡合戦などでも活躍し、家康から備前長光作の脇差を賜るなど、その武勇は高く評価されていました。

三河一向一揆への加担とその後

しかし、永禄6年（1563年）秋に勃発した三河一向一揆では、事態は一変します。一揆勢に加担し、野場城（または六栗城）に籠城して家康と対峙しました。一揆勢は敗れ、吉信は捕らえられますが、その後、許されて家康のもとへ帰参。同年7月3日には再び郡代に任命されています。この経緯からは、吉信が常に家康に忠実であったとは言い切れない複雑な立場にあったことがわかります。

三方ヶ原の戦いでの戦死

元亀3年（1573年）、三方ヶ原の戦いが勃発します。吉信は浜松城に留まっていましたが、戦況の悪化を察知して家康の救援に向かいます。敗走する家康を説得し、自らを家康と偽って武田軍の追撃隊に突入、奮戦の末、戦死しました。享年55歳。家康は吉信の忠義を深く悼み、本宿の法蔵寺に慰霊碑を建立し、「信誉徹忠居士」と刻みました。

子孫と系譜

吉信には複数の男子がいましたが、長男と次男は既に亡くなり、三男の信次は出奔して松下姓を名乗り、その後徳川氏に仕えました。四男の吉忠は吉信の後を継ぐ予定でしたが、病死。吉信の系譜は複雑で、子孫の中には様々な道を歩んだ者もいます。明治時代の文豪、夏目漱石も吉信の子孫を自称しており、その系譜については様々な議論がなされています。

関連史跡

吉信ゆかりの史跡は、愛知県額田郡幸田町を中心に点在しています。六栗城跡や野場城跡は、吉信が過ごした地を今に伝えています。また、吉信の墓所は、幸田町の明善寺と岡崎市本宿町の法蔵寺にあります。法蔵寺の墓は家康によって建立されたもので、吉信の忠節を顕彰するものです。さらに、静岡県浜松市には「夏目次郎左衛門吉信旌忠碑」があり、吉信の功績を称えています。

登場作品

吉信は、NHK大河ドラマ『黄金の日日』『徳川家康』『どうする家康』などにも登場しており、その生涯は現代においても広く知られています。

結論

夏目吉信は、複雑な時代の中で揺れ動きながらも、その生涯を通して忠義を貫いた武将でした。その功績は、史跡や系譜、そして様々な作品を通して、現代にまで語り継がれています。彼の生き様は、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

もう一度検索