松平広忠

松平広忠：波乱の生涯と謎多き最期

松平広忠は、戦国時代を駆け抜けた武将であり、三河国岡崎城の城主、安祥松平家第4代当主として知られています。徳川家康の父として、その名は広く知られていますが、彼自身の人生は、数々の争いと謎に包まれた複雑なものでした。

出自と生年

多くの史料は、広忠の生年を大永6年（1526年）4月29日と記しています。しかし、「松平記」や「三河記大全」などの史料は、天文18年（1549年）に24歳で没したと記しており、これらから逆算しても生年は一致する。一方で、25歳没、27歳没とする説もあり、生年については諸説が入り混じっています。幼名は竹千代とされていますが、他にも複数の呼び名があった可能性も示唆されています。生母については、青木貞景の娘とする説が有力ですが、松平信貞の娘とする異説も存在します。兄弟には、松平信康、香樹院、碓井姫、成誉上人がいます。

激動の青年期：森山崩れと岡崎追放

天文4年（1535年）、広忠が10歳の時、父・清康が家臣の阿部正豊によって殺害されるという悲劇（森山崩れ）に見舞われます。この事件によって、幼い広忠は安祥松平家の家督を相続することとなりました。直後には織田信秀の三河侵攻を受け、叔父・松平康孝の指揮下で井田野合戦が勃発します。この合戦の結果については諸説あり、和睦で終結したとする説や、虚構であるとする説も存在します。

その後、大叔父である松平信定と対立。信定は岡崎城を掌握し、広忠は追放されてしまいます。広忠は重臣・阿部定吉らと共に吉良持広を頼り、伊勢国神戸などに逃亡。吉良持広を介して今川義元に支援を要請し、遠江国懸塚を経て三河牟呂城に入城したとされます。この頃の広忠の動向は史料によって異なり、阿部定吉の姻戚関係を頼って伊勢に亡命したという説や、阿部によるクーデターの結果、広忠が逃亡したという説など、様々な解釈が提示されています。

譜代の家臣らは、広忠の帰還を強く望み、阿部定吉や大久保忠俊らが尽力した結果、天文年間中に広忠は岡崎城を奪還しました。

織田氏との抗争と家康の誕生

広忠の後半生は、織田氏の三河侵攻への対応に費やされました。天文9年（1540年）には安祥城が織田軍に攻められ、城代・松平長家が戦死しました。天文10年（1541年）、水野忠政の娘・於大の方と結婚し、同年12月26日には嫡男・竹千代（後の徳川家康）が誕生しました。

しかし、広忠は叔父・松平信孝の権勢の増長を警戒し、信孝を岡崎から追放。信孝は織田信秀に通じて離反し、広忠は信孝とも戦うことになりました。さらに、於大の方の兄・水野信元が織田氏に寝返ったため、天文13年（1544年）には於大の方と離縁しています。その後も織田氏との戦いは続き、安祥城攻防戦や小豆坂の戦いなどで激しく争いました。竹千代は一時、人質として織田方に拉致されるという危機も経験しています。

天文17年（1548年）には小豆坂で織田勢に大勝するなど、一時優勢に立つものの、その後も戦いは続き、天文18年（1549年）2月には織田信広を捕虜とした後、竹千代との交換を行い、竹千代は駿府へ人質として送られました。

謎に包まれた最期

天文18年（1549年）3月6日、広忠は死去しました。享年24歳。死因については、病死説、岩松八弥による暗殺説、一揆による殺害説など、複数の説が存在し、未だに謎に包まれています。近年では、天文16年（1547年）9月に織田信秀が岡崎城を攻め落としたとする説も浮上し、従来の広忠像の見直しを迫られています。

婚姻と離縁

広忠の婚姻や離縁についても、諸説が存在します。「武徳大成記」は於大の方との婚姻を天文10年、「岡崎領主古記」は天文9年としており、離縁の理由も水野信元の織田氏への寝返りとする説や、松平信孝追放による水野氏との同盟破綻とする説などがあります。

子女

広忠の子女についても、史料によって記述が異なり、数や母についても様々な説があります。徳川家康の他に、多劫姫、松平忠政、樵暗恵最、矢田姫、市場殿などが広忠の子女として挙げられていますが、その存在や生母については議論の余地があります。

まとめ

松平広忠の生涯は、父・清康の死を始まりに、織田氏との抗争、岡崎城をめぐる争い、そして謎に包まれた最期と、数々の出来事が複雑に絡み合った波乱万丈なものでした。史料の不足や食い違いも存在する中で、彼の生涯を正確に理解するには、更なる研究と検証が必要となるでしょう。様々な史料から読み解かれる彼の生涯は、今もなお歴史家の興味を引きつけ、新たな発見が期待されています。

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