多核体

多核体（たかくたい）

多核体とは、一つの細胞の中に多数の核が存在する状態を指します。これは、一般的な生物の細胞が通常一つまたはごく少数の核を持つことと対照的です。通常の細胞は、成長に伴って核が分裂する際に、同時に細胞質も分裂することで、細胞の形態と核の数を一定に保ちます。しかし、多核体の生物では、核分裂は行われるものの、細胞質の分裂が伴いません。この過程が繰り返されることで、巨大な細胞質の空間に多数の核が散在する構造が形成されます。

このような多核体構造は、一般的な生命の単位である細胞の定義から外れるように見えるため、「非細胞生物」と呼ばれることもありました。しかし、細胞小器官などは通常の細胞と共通しており、生命活動としては細胞的な振る舞いをすることから、細胞の多様な形態の一つとして理解されています。

多核体の生物は、単一の細胞としては非常に大型になる例が多いです。時には、多細胞構造を持たずに巨大な体を形成することもあります。ただし、細胞単独での物理的な強度が低い傾向があるためか、細長い管状や薄い膜状の形態をとることがしばしば見られます。これらの管状構造が複雑に絡み合い、まとまって比較的大きな体を作るケースもあります。

生殖を行う際には、多核体の中から個々の核が細胞として分離し、生殖細胞となる場合や、体細胞から隔壁が形成されて生殖細胞が分化する場合があります。

なお、多細胞生物の一部にも複数の核を持つ細胞が見られますが、これは多核体とは異なります。例えば、動物の筋肉細胞のように、複数の細胞が融合して生じるものは「合胞体（シンシチウム）」と呼ばれ、多核体が核分裂のみで大きくなるのとはメカニズムが異なります。

多核体が見られる生物の例

多核体の体を持つ代表的な生物群をいくつか紹介します。

変形菌類
変形菌の栄養体である変形体は、配偶子の融合後に細胞質分裂を伴わない核分裂を繰り返して成長します。時には1メートル以上に広がり、億を超える核を持つ巨大な多核体になります。変形体は粘液状で、薄く広がって移動・摂食し、成長すると網状に枝分かれします。それぞれの枝の内部では、非常に速い原形質流動が一定周期で反転する現象が見られます。原生粘菌やネコブカビなども小さな多核体の変形体を形成します。

菌類
ツボカビ門や接合菌門の一部の菌類に、隔壁のない多核体の菌糸構造が見られます。ツボカビ門の壺状の胞子嚢も多核体です。これらの菌糸は太く、多数の仮根を伸ばします。菌糸内部は中央に大きな液胞があり、細胞質は周辺に集まっています。また、子のう菌や担子菌の菌糸は隔壁で区切られて細胞状に見えますが、隔壁に核が通過できる孔があるため、機能的には多核体に近い状態と言えます。さらに担子菌類には、一つの細胞に二つの核が常に存在する「二核菌糸」という特殊な例もあります。

ストラメノパイル
かつて菌類とされていた卵菌類は、多核の菌糸状構造を持ちます。藻類では、シオグサ類であるフシナシミドロなどが、細長い管状の多核体の藻体を形成します。

緑藻類
カサノリ目やイワヅタ目の藻類は「多核嚢状体」と呼ばれます。例えば、ミルは1メートルにもなる棒状の藻体ですが、これは多数の小さな嚢状体が集まり、内部の細管で連結された多核体構造です。細胞壁の支柱や石灰質の沈着を持つ種類もあります。その他にも、細胞には分かれながらも、個々の細胞内に複数の核を持つ緑藻類も存在します。

* 原生動物
有孔虫やオパリナ類は、多くの核を持つ原生動物です。繊毛虫は、栄養に関する大きな核と、生殖に関する小さな核というように、機能分化した二つの核を持ちます。アメーバの中にも、二つ以上の核を持つ種が見られます。

これらの例からもわかるように、多核体は様々な系統の生物に見られる、多様な細胞構造の一つです。
態の一つです。核分裂と細胞質分裂のバランスが崩れることで生じるこの特殊な構造は、それぞれの生物が環境に適応する上で重要な役割を果たしていると考えられます。

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