多段式空母

多段式空母とは、第二次世界大戦以前に存在した航空母艦の一形式で、飛行甲板がひな壇のように二段または三段に分かれているものを指します。航空機の性能がまだ低かった黎明期には、発艦と着艦を同時に行うことで運用効率を高めるという発想から生まれましたが、航空機の高速化と大型化に伴い、その姿を消しました。

多段式空母誕生の背景

航空母艦の黎明期、各国海軍は空母の運用方法について試行錯誤を重ねていました。初期の空母は全通式飛行甲板を持つものが主流でしたが、発艦と着艦を同時に行うことができないという課題がありました。そこで、発艦と着艦を別々の甲板で行うことで効率化を図るという発想から、多段式空母が誕生しました。

イギリスでは、最初期の空母「フューリアス」を改装する際に、艦首部分に発進用、一段高い上段に着艦用の飛行甲板を設置しました。これが二段式空母の始まりです。また、「グローリアス」「カレイジャス」も同様に二段式に改装されました。

日本では、「赤城」と「加賀」が当初、巡洋戦艦および戦艦として建造される予定でしたが、ワシントン海軍軍縮条約により空母への改装が決定されました。この際、「赤城」は三段式飛行甲板を持つ空母として設計されました。上段は着艦用、中段は小型機の発進用、下段は大型機の発進用と、役割が分かれていました。艦橋は上段飛行甲板の前端下部に設置され、中段には20cm主砲が装備されていました。「加賀」も同様の構造を持っていました。

多段式空母の利点

多段式空母の最大の利点は、発艦と着艦を同時に行える点でした。全通式空母では発艦と着艦を同時に行うことはできませんでしたが、多段式空母では別々の甲板で行うことで、連続的な航空作戦が可能になると考えられました。また、エレベーターを使わずに直接飛行甲板へ航空機を移動させることができ、作業の効率化にもつながりました。

多段式空母の欠点

しかし、多段式空母には多くの欠点がありました。下段と中段の飛行甲板は、実際には発進にほとんど使用されませんでした。特に「赤城」の下段は56.7m、中段は15mと短く、当時の主力機であった大型の単葉機では離着艦が困難でした。結局、中段は兵装の設置場所や航空機の整備に使われる程度でした。

また、飛行甲板を上下に分散させたことで、格納庫の容量が少なくなり、上段の甲板の長さも短くなってしまいました。航空機の大型化と重量化に伴い、着陸速度と滑走距離も長くなっており、これも運用上の問題となりました。さらに、航空機の航続距離が伸びたことで敵艦隊との砲戦の可能性が低くなり、20cm主砲も不要となりました。

多段式空母の衰退

航空機の性能向上に伴い、多段式空母の欠点が目立つようになり、各国の海軍は全通式の飛行甲板へと移行しました。日本では、「加賀」と「赤城」が大規模な改装を行い、一段の全通飛行甲板となりました。これにより、搭載機数が増加し、飛行甲板も延長されました。

イギリス海軍でも、二段式飛行甲板のまま第二次世界大戦に投入された「フューリアス」「カレイジャス」「グローリアス」がありましたが、下段は対空兵装が装備され、飛行甲板としては全く使われることがありませんでした。

歴史上、多段式空母として実在したのは、上記の5隻のみです。現在では、アングルド・デッキなどの技術により、発着艦を同時に行うことが可能になり、多段式の飛行甲板は使用されていません。

多段式空母は、航空母艦黎明期の試行錯誤の産物であり、その歴史は、技術の進歩と戦術の変化を物語る上で重要な役割を担っています。

参考文献

佐藤和正『空母入門』光人社NF文庫、2005年。ISBN 4-7698-2174-3
雑誌「丸」編集部編『日本海軍艦艇写真集5 空母赤城・加賀・鳳翔・龍驤』光人社、1996年。ISBN 4-7698-0775-9
レッカ社編『世界の「戦艦・空母」がよくわかる本』 PHP文庫、2009年。ISBN 978-4-569-67164-2