多聞部

多聞部の概説

多聞部（梵: Bahuśrutīya、バフシュルティーヤ）は、部派仏教の中でも特徴的な一派として知られています。彼らの起源は大衆部に遡りますが、独自の教義や解釈を展開しました。『異部宗輪論』や『舎利弗問経』などの文献によれば、多聞部は大衆部から分派したとされています。

名称の由来

多聞部という名称は、サンスクリット語で「多く聞いた者」を意味します。この名称には特別な意義があり、部派の特性を表しています。大乗仏教の典籍『異部宗輪論疏述記』には、多聞部の名前の由来や特徴についての説明が詳細に記されています。

起源

多聞部の開祖として知られるのは、ヤージュニャヴァルキヤ（Yājñavalkya）という阿羅漢です。真諦三蔵によれば、彼はブッダと同時代に生き、ブッダの教えを直接聞いていたとのこと。彼はブッダが涅槃に入る前に三昧の境地に達し、その後実際の世の変化を知らずに過ごしていました。200年後にこの状態から戻った際、彼は大衆部が経典の表面的な意味しか伝えていないことに気づくと、より深い解釈を求めて多聞部を設立したとされています。このことから、多聞部は大乗仏教とも関わりを持つ教派とされています。

教義と教え

多聞部の教えには、ブッダの無常、苦、空、無我、涅槃寂静といった教えがあり、これらは出世間的な視点から重要視されました。一方で、その他のブッダの言葉は世俗的な視点から解釈されました。真諦によると、多聞部は声聞（シャラプトラ）の教えと大乗の教えの双方を受け入れていました。このことから、意識的に「世間教」と「出世間教」の両方の教えを尊重する形で形成されていたことが示唆されています。多聞部は他の大衆部の分派と同じく、阿羅漢にも過ちを犯す可能性があると認識していたため、その教義には柔軟性がありました。

典籍

多聞部に関連する著作としては、訶梨跋摩の『成実論』（Satyasiddhi）が挙げられます。この論書は多聞部の特徴を反映したものとされ、真諦はこの著作が「小乗」と大乗の教説の混在を示すものであるとしています。『成実論』には菩薩蔵（Bodhisattva-piṭaka）に関する言及も見られ、無限の理解や解釈の余地があることを示しています。

多聞部の教義や歴史は、仏教の多様性と深さを理解するために重要な要素です。彼らの教えは現代でも研究され続けており、仏教徒にとって貴重な知識の源となっています。

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