多賀城碑

多賀城碑：歴史と謎に満ちた国宝

宮城県多賀城市に位置する多賀城碑は、奈良時代に建立された石碑で、2024年に国宝に指定されました。高さ約1.96メートル、幅約1メートル、厚さ約50センチの花崗砂岩製の碑には、11行140字の碑文が刻まれています。この碑文は、多賀城の創建（724年）と改修（762年）を記したもので、書道史においても重要な位置を占める「日本三古碑」の一つとして高く評価されています。

建立の背景と碑文の内容

多賀城碑は、藤原朝狩（恵美朝狩）によって建立されました。碑文には、平城京から多賀城までの行程、そして多賀城の創建者である大野東人、改修者である朝狩の功績が記されています。碑の上部には大きく「西」の文字が刻まれており、これは西方に位置する都へのアピールを意図したものと考えられています。碑文からは、当時の政治情勢や交通事情、そして多賀城という拠点の重要性が読み取れます。碑文の具体的な内容は、前段部分で都から陸奥国までの行程、常陸国、下野国、靺鞨国、蝦夷国などを経て多賀城に至るルートと距離が記され、後段部分では、神亀元年（724年）に大野東人によって多賀城が設置され、天平宝字6年（762年）に朝狩によって修築されたことが記されています。

発見と学説史：真作か偽作か

多賀城碑の発見は江戸時代初期に遡るとされ、発見当初から歌枕の「壺の碑」として知られていました。松尾芭蕉も『奥の細道』で訪れたことを記しています。碑文の正確な読み解きは、仙台藩の儒学者である佐久間義和とその子によって行われました。しかし、江戸時代末期から、多賀城碑の真偽を巡る論争が勃発しました。

偽作説

偽作説の根拠としては、書体や文字の彫り方、碑文の内容に矛盾点があると指摘されました。具体的には、書体が古風を模倣しているものの生気がなく、文字の彫り方が近世以降の技法である「箱彫り」であること、朝狩の官位や経歴、靺鞨国の国号、里程の記載などに、史実と合わない点があることなどが挙げられています。これらのことから、仙台藩が佐久間義和に作らせた偽作とする説が有力視されました。

真作説

しかし、1963年の多賀城跡の発掘調査で8世紀半ばの大規模改修の痕跡が見つかり、多賀城碑の碑文後半の内容と一致することが判明しました。これは、それまで知られていなかった多賀城改修を伝える唯一の文字史料として、多賀城碑の重要性を再認識させる契機となりました。さらに、書体や彫り方の再検討、碑文の内容の再解釈、そして1997年の覆堂解体修理時の発掘調査で古代の据え付け跡が確認されたことなどから、現在では真作説が有力となっています。

多賀城碑の価値と意義

多賀城碑は、単なる石碑ではなく、古代の歴史、文化、政治を知る上で貴重な資料です。その歴史的価値、書道史的価値に加え、真偽論争というドラマチックな経緯も、この碑の持つ魅力を高めています。現在、多賀城碑は国の重要文化財に指定され、多賀城市の誇りとして大切に保存・管理されています。東北歴史博物館には復元模型が展示されており、より多くの人々がこの歴史的遺産に触れる機会が提供されています。多賀城碑は、古代日本の歴史を深く理解するために欠かせない存在であり、今後もその価値は失われることなく、後世に受け継がれていくでしょう。

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