夜の歌 (エルガー)

エドワード・エルガー：夜の歌 作品15-1

エドワード・エルガー（Edward Elgar, 1857-1934）が作曲した『夜の歌』作品15-1は、元々はヴァイオリンとピアノのために書かれた美しい小品です。フランス語のタイトルである「Chanson de Nuit」としても知られています。この曲は、後に作曲者自身の手によって管弦楽版に編曲され、広く親しまれるようになりました。しばしば、エルガーの作品15を構成するもう一つの曲、『朝の歌』作品15-2と対比されることが多く、一般的には本作『夜の歌』の方が音楽的な完成度が高いと評価される傾向にあります。

この作品は、1889年から1890年頃にかけて作曲されたものと考えられていますが、楽譜の初版はやや遅れて1897年に出版されました。曲は、エルガーの友人であり、当時ウスターシャー・フィルハーモニック協会の管弦楽団で第1ヴァイオリン奏者を務めていたフランク・エアキ医師（Dr. Frank Ehrke）に献呈されています。この献呈からも、ヴァイオリンという楽器がエルガーにとって身近であったことが伺えます。

オリジナルのヴァイオリンとピアノ版は、アンダンテ（Andante）の速度指定を持ち、4/4拍子、ト長調で書かれています。楽曲は非常に穏やかで内省的な雰囲気を持ち、夜の静寂や落ち着きを描写しているかのようです。音楽は、まずピアノによって奏でられる落ち着いた、しかし豊かな響きの和音の伴奏で始まります。この安定した響きの上に、ヴァイオリンが息の長い、流れるような美しい旋律を歌い上げます。この旋律は、聴く者の心に深く染み入り、夜の情景を思い起こさせます。曲は比較的シンプルながらも、エルガーらしい旋律美と和声感が光る佳品と言えるでしょう。標準的な演奏時間は約3分半です。

『夜の歌』は、その魅力的な旋律ゆえに、様々な楽器編成に編曲されています。最もよく知られているのは、オリジナルのヴァイオリンとピアノ版、そして作曲者自身によって行われた管弦楽版です。しかし、エルガー自身は他にもチェロとピアノのための編曲、そしてヴィオラとピアノのための編曲も手掛けています。さらに、エルガーの友人であったオルガニスト、ハーバート・ブリュワー（Herbert Brewer）によるオルガン版も存在し、幅広い奏者や聴衆に親しまれています。これらの多様な編曲は、この曲が持つ普遍的な美しさを示していると言えるでしょう。

中でも管弦楽版は、原曲の魅力をオーケストラの豊かな響きで表現しており、コンサートなどでも取り上げられる機会が多いです。管弦楽版の楽譜は、原曲に遅れて1899年に初版が出版されました。この管弦楽版は、『朝の歌』の管弦楽版と共に、1901年9月14日にロンドンのクイーンズ・ホールで開催されたプロムナード・コンサートにおいて初演されました。指揮は、同コンサートの創設者でもある高名な指揮者、ヘンリー・ウッド卿（Sir Henry Wood）が執り行いました。管弦楽版の楽器編成は、フルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、ハープ1、そして弦五部（ヴァイオリン第一、ヴァイオリン第二、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）という、比較的標準的かつ簡潔な編成です。この編成は、対となる『朝の歌』の管弦楽版と全く同じであり、二つの曲が組み合わされて演奏されることを想定していることが分かります。

『夜の歌』と『朝の歌』は、作品番号を連番で持ち、しばしば対として扱われます。『夜の歌』が夜の静寂や瞑想的な雰囲気を描いているのに対し、『朝の歌』はより軽快で明るい雰囲気を持っています。二つの曲を続けて聴くことで、夜から朝への情景の変化を感じ取ることができます。しかし、先に述べたように、多くの評論家や聴衆は、『夜の歌』の方がより深い情緒と洗練された音楽性を持っていると評価することが多いようです。

全体として、『夜の歌』はエルガーの初期の優れた小品の一つであり、彼の持つメロディーメーカーとしての才能と、繊細な感情表現能力が存分に発揮されています。ヴァイオリンの美しい旋律と、それを支える温かいハーモニーが一体となり、静かで穏やかな夜の情景を見事に描き出した、愛される作品です。

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