夜来たる

アイザック・アシモフ「夜来たる」解説

『夜来たる』（Nightfall）は、SF界の巨匠アイザック・アシモフが1941年に発表した短編SF小説であり、彼の名を一躍有名にした出世作です。SFの古典として、長年にわたり多くの読者に愛され続けています。

概要

物語の舞台は、6つの太陽が存在する惑星ラガッシュ。この惑星では常に太陽の光が降り注ぎ、人々は夜を知らずに生きています。しかし、約2000年に一度、皆既日食によってラガッシュは完全な暗闇に包まれます。

この日食は、ラガッシュの文明に大きな危機をもたらします。暗闇に対する本能的な恐怖、そして今まで見たことのない星々の出現によって、人々は狂気に陥り、文明を破壊してしまうのです。

アシモフは、師であるジョン・W・キャンベルからラルフ・ワルド・エマーソンの言葉「もし星々が千年に一夜のみ輝くなら、人々はいかにして神の都の存在を信じ、後世に語り継ぐ事が出来ようか」を教えられ、このアイデアを基に本作を執筆しました。

あらすじ

惑星ラガッシュでは、科学者たちが2000年周期で文明が崩壊していることに気づきます。彼らは過去の記録から、日食の際に人々が暗闇と星の出現によって狂気に陥り、火災を起こして文明を滅ぼしてきたことを突き止めます。

科学者たちは次の日食を観測し、文明崩壊のサイクルを打破しようと試みます。しかし、彼らは星の光を過小評価していました。ラガッシュの人々は、常に太陽に照らされているため、星を見たことがありません。日食によって現れた無数の星々は、彼らにとって想像を絶する光景であり、科学者たちを含む全ての人々を狂気に陥れてしまうのです。

ラガッシュの星系

ラガッシュには、原作ではアルファ、ベータなどの名前で呼ばれる6つの太陽が存在します。長編版では、これらの太陽にオノス、ドヴィム、トゥレイ、パトゥル、タノ、シタという名前が付けられています。

オノス: ラガッシュの主要な太陽であり、地球と太陽の距離とほぼ同じ位置にあります。
ドヴィム: 赤色矮星
トゥレイとパトゥル: A型またはF型の主系列星で、連星系を形成しています。
タノとシタ: A型、B型、またはO型の主系列星で、連星系を形成しています。

ラガッシュの月であるラガッシュ2は、2049年ごとにドヴィムを遮り、皆既日食を引き起こします。

収録作品と長編版

短編「夜来たる」は、数多くのSFアンソロジーに収録されています。また、1969年には同タイトルの短編集が出版され、アシモフ自身が作品の進歩を語るなど、興味深い内容となっています。

1990年には、ロバート・シルヴァーバーグによって長編版が出版されました。短編をベースに、前日譚と後日譚が加えられ、物語がより深く掘り下げられています。

映画化と影響

1988年にはロジャー・コーマン監督によって映画化されました。また、2000年のアメリカ映画『ピッチブラック』は、本作の設定をベースにしています。

劉慈欣のSF小説『三体』にも、本作の影響が見られます。

まとめ

「夜来たる」は、SFというジャンルを超えて、人間の心理や文明の脆弱性を描いた傑作です。暗闇と光、知識と狂気、そして信仰といったテーマが織り交ぜられた本作は、読む者に深い感動と問いを与えてくれます。SFファンはもちろん、全ての人におすすめしたい作品です。

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