大井の方

大井の方（おおいのかた）

大井の方（1497年 - 1552年）は、戦国時代の女性で、甲斐国の守護大名・武田信虎の正室であり、武田信玄の生母として知られています。大井夫人とも呼ばれ、実名は不明です。出家後は、躑躅ヶ崎館の北にある御隠居曲輪に移り、「御北様」と尊称されました。

生涯

出自と結婚

大井の方は、甲斐西郡の国衆で武田氏の一門でもある大井信達の娘として生まれました。当時、甲斐では武田氏と国衆の対立が続いており、大井氏も駿河の今川氏と結んで武田氏と敵対していました。しかし、1517年に信達は信虎と和睦し、その際に大井の方が信虎の正室として嫁ぎました。この結婚は、大井氏の人質としての意味合いが強い政略結婚だったと考えられています。大井氏からは、嫡男の信業らが武田家の家臣団に加わり、兄弟は武藤姓を名乗る者もいました。

武田家での役割

信虎との間には、長女（定恵院）をはじめ、嫡男の晴信（後の信玄）、信繁、信廉（逍遙軒信綱）らが生まれました。また、晴信の弟で信繁の兄である戌千代の生母とも言われています。大井の方は、岐秀元伯を大井氏の菩提寺である長禅寺に招き、晴信に『四書五経』や『孫子』『呉子』などの学問を学ばせました。また、塩山向嶽庵や大善寺への寄進も行っています。

信虎追放とその後

1541年、信虎が晴信によって駿河に追放された際、大井の方は信虎に同行せずに甲斐に留まりました。その後、晴信は信濃侵攻を開始しますが、1548年の上田原の戦いで大敗を喫します。敗戦後も在陣を続けた晴信は、大井夫人の説得により帰還したと伝えられています。これは、彼女が武田家内で大きな影響力を持っていたことを示すエピソードと言えるでしょう。

死去

1552年5月7日、大井の方は56歳で亡くなりました。法名は瑞雲院殿心月珠泉大姉。墓所は南アルプス市にある長禅寺にありますが、後に信玄によって同寺は甲府に移されています。

肖像画

大井の方の死後、一周忌に際して、信廉によって肖像画が描かれました。この肖像画（「絹本着色武田信虎夫人」）は重要文化財に指定されており、甲府長禅寺に所蔵されています。画中には、大井の方の和歌と、信虎が創建した大泉寺の住職による賛文が寄せられています。信廉は、武将画家としても知られ、父である信虎の肖像画も残しています。

登場作品

大井の方は、以下の作品で描かれています。

NHK大河ドラマ
『武田信玄』（1988年）：演 - 若尾文子
『風林火山』（2007年）：演 - 風吹ジュン
TBS
『武田信玄』（1991年）：演 - 岩下志麻

脚注

参考文献

柴辻俊六「武田信玄とその一族」（柴辻俊六編『新編武田信玄のすべて』新人物往来社、2008年）
柴辻俊六「武田氏当主の妻妾」（『山梨県史』通史編2中世）

関連項目

『武田信玄 (NHK大河ドラマ)』
* 『風林火山 (NHK大河ドラマ)』

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