上田原の戦い

上田原の戦い（うえだはらのたたかい）は、天文17年2月14日（1548年 3月23日）に、信濃国上田原（現在の長野県上田市）で行われた戦いです。甲斐国の戦国大名である武田晴信（後の信玄）と、北信濃の戦国大名である村上義清が戦いました。この戦いは、武田氏の信濃侵攻における重要な転換点となりました。

戦いの背景

武田氏は、武田信虎の時代に甲斐国を統一し、信濃国への侵攻を開始しました。当初は連戦連勝で勢いに乗っていましたが、天文10年（1541年）に信虎が嫡男の晴信によって追放され、晴信が家督を継承しました。その後も信濃侵攻は続き、諏訪氏や佐久郡の豪族を滅ぼし、勢力を拡大しました。

一方、村上義清は北信濃の名族で、葛尾城を本拠に勢力を拡大していました。村上氏は、武田氏の信濃侵攻を阻止するため、武田氏と対立することになります。

天文16年（1547年）、武田氏は上杉憲政と結んで抵抗する笠原清繁の志賀城を包囲し、これを陥落させました。これにより、武田氏は北信濃への足がかりを築き、村上氏との対決は不可避となりました。

合戦の経過

天文17年2月1日（1548年 3月10日）、武田晴信は5000の兵を率いて北信濃へ進軍を開始しました。武田軍は上原城で板垣信方の率いる諏訪衆や郡内衆と合流し、大門峠を越えて小県郡南部へ侵攻しました。

村上義清は、葛尾城と戸石城を拠点に、岩鼻まで南下して上田平に展開し、産川を挟んで武田軍と対陣しました。2月14日（3月23日）に両軍は合戦を開始しました。

合戦の具体的な経過を記した同時代の史料は乏しいですが、江戸時代の軍記物『甲陽軍鑑』などによると、武田軍は先陣を板垣信方に任せ、村上軍に攻撃を仕掛けました。板垣勢は村上勢を撃破して敵陣深く突進しましたが、勝ちに奢った信方は敵前で首実検を始めたため、村上勢の反撃を受け、信方は討ち取られました。これにより、板垣勢は崩れ、武田軍は総崩れとなりました。

この戦いで、武田軍は板垣信方、甘利虎泰といった重臣を失う大敗を喫しました。しかし、村上軍も屋代基綱、小島権兵衛、雨宮正利らを失い、大きな損害を受けました。そのため、村上軍も追撃する余力がなく退陣しました。

敗北した武田軍は、晴信の指揮のもと態勢を立て直し、20日余り戦場に留まりました。その後、晴信の母である大井夫人の説得により、武田軍は撤退しました。

戦後の影響

上田原の戦いは、武田晴信にとって初めての敗戦であり、信濃国人衆は村上氏、小笠原氏を中心に結束して反撃に出ました。諏訪郡でも西方衆が反乱を起こし、武田氏の信濃支配は危機に陥りました。

しかし、晴信は7月19日に塩尻峠の戦いで小笠原長時に大勝し、武田氏は再び優位を回復しました。天文19年（1550年）には、上田原の戦いの雪辱を果たすべく、村上氏の支城である戸石城を包囲しますが、村上義清の反撃を受け、再び大敗を喫しました（砥石崩れ）。

翌同20年（1551年）、武田家臣の真田幸綱の計略により戸石城は陥落し、村上義清は葛尾城に孤立しました。同22年（1553年）、武田軍の侵攻の前に義清は葛尾城を捨てて越後国へ逃れ、長尾景虎（後の上杉謙信）に援助を請うたことで、川中島の戦いへと繋がっていきます。

古戦場

長野県上田市にある石久摩神社境内に「上田原古戦場」の石碑が建てられています。また、上田市上田古戦場公園や長野県営上田野球場が立地し、上田古戦場ハーフマラソンが毎年開催されています。

作品における上田原の戦い

武田信玄を主人公とするドラマや小説では、上田原の戦いは、晴信の慢心が敗因であるとされ、板垣信方、甘利虎泰ら重臣たちを失ったこの敗戦を、その後の人生の教訓にする筋立てになっているものが多いです。

NHK大河ドラマ『武田信玄』（1988年）や『風林火山』（2007年）でも、同様の解釈で描かれています。

参考文献

柴辻俊六『武田信玄合戦録』（角川学芸出版、2006年）
平山優『戦史ドキュメント川中島の戦い』上、下（学研M文庫、2002年）
『戦国合戦大全 (上巻) 』（学研、1997年）
『クロニック戦国全史』（講談社、1995年）
桑田忠親『新編日本合戦全集応仁室町編』(秋田書店、1990年）

上田原の戦い