大和肉鶏

大和肉鶏（やまとにくどり）

大和肉鶏は、奈良県で生産されている地鶏であり、地鶏肉の日本農林規格（特定JAS規格）を満たしています。その特徴は、赤身を帯びた肉質と、多様な料理への適応性です。

概要

戦前、京阪神で「肉質がよい」と評判だった「大和かしわ」の味を再現するため、1974年に奈良県畜産試験場（現在の奈良県畜産技術センター）が研究に着手しました。試行錯誤の末、大型軍鶏、名古屋種、ニューハンプシャー種を掛け合わせた3種交配の地鶏「大和肉鶏」が誕生し、1982年に本格的な流通が開始されました。現在では、奈良県を代表する特産品となっています。

大和肉鶏の肉は、たたき、塩焼き、鍋物、しゃぶしゃぶ、すき焼き、焼き鳥など、幅広い料理に利用できます。正肉だけでなく、内臓やガラも和食、洋食、中華料理など、様々なジャンルで活用されています。

歴史

奈良県は、古くから農家の副業として小規模な養鶏が盛んでした。肥沃な土地で飼料となる雑穀が豊富に収穫できたため、自家で飼育した鶏を調理する「かしわのすき焼き」は、お祝いや祭りの際の特別な料理でした。明治時代から戦前にかけて、鶏肉は牛肉よりも高価な食材であり、庶民にとっては特別なものでした。

先代の大和肉鶏は、名古屋コーチンとロードアイランドレッドを交配して作られた大型の肉卵兼用種で、県の奨励鶏種でした。1907年には奈良県下で15万羽以上、1924年には35万羽以上のニワトリが飼育されていました。1925年には県内に39もの養鶏組合ができるほど、養鶏は盛んでした。

大正末期から昭和初期にかけて、奈良県では農村恐慌対策として養鶏が奨励され、大和肉鶏の飼育が盛んになりました。戦前には、愛知県、徳島県と並び、日本三大養鶏地の一つとして知られていました。特に添上郡平和村（現大和郡山市）が生産の中心地であり、1934年には奈良県産業組合連合会が郡山孵化場を設置し、大和肉鶏の雛を供給していました。農家は、納屋を利用した平飼いで鶏を飼育し、トウモロコシや乾燥ニシンを主とする高蛋白高カロリーの飼料を与えていました。集荷は「トリヤ」と呼ばれる仲買人が行い、生きたまま鶏を竹籠に詰めて京阪神に出荷していました。京都や大阪には直販所が設けられ、特に京都では、多くの鶏料理に「大和かしわ」が使用されていました。

しかし、終戦後、飼料の供給が制限されたことや、ブロイラーの普及により、大和肉鶏の生産は衰退しました。

1970年頃から、かつての「大和かしわ」の味を求める声が高まり、1974年に奈良県畜産試験場が「大和かしわ」の復活を目指して研究を開始しました。その結果、名古屋種の雄とニューハンプシャー種の雌から生まれた雌鶏に大型軍鶏の雄を掛け合わせた三種交配の新品種「大和肉鶏」が誕生しました。

1979年から県内の農家で飼育試験が開始され、1982年には生産者、孵化業者、処理・販売業者、飼料業者などが協力して「大和肉鶏普及協会」が発足し、本格的な生産・販売が始まりました。1992年には生産農家による「大和肉鶏農業協同組合」が結成され、1998年には奈良特産品ブランドに認定、2007年には地域団体商標に登録され、ブランド地鶏としての地位を確立しました。

生産・流通

奈良県畜産技術センターから供給された種鶏をもとに、奈良県内唯一の民間孵化場である竹内孵卵場が「大和肉鶏」の雛を生産し、生産者に供給しています。

大和肉鶏農業協同組合が生産から流通までを一元的に管理し、「大和肉鶏飼養生産管理ガイドライン」に基づき、動物性由来の原料を使用しない専用配合飼料を与え、ブロイラーの約2倍にあたる120日以上かけて飼育するなど、徹底した管理体制を確立しています。

ブロイラーと比べて飼育密度を低く抑え、飼育期間も長いため、生産コストは高くなります。また、軍鶏の血を引いているため気性が荒く、飼育には細心の注意が必要です。鶏舎の温度や照明、換気を適切に管理し、床を清潔に保つなど、手間をかけて飼育されています。2011年からは、食欲増進と品質向上のため、飼料に米を10％配合しています。

2013年には、大和肉鶏を使用したと偽って、他の鶏肉を提供する事件が発生し、ブランドイメージが損なわれるという事態も起きました。大和肉鶏農業協同組合は、トレーサビリティを確立し、消費者の信頼を得ることで、ブランドイメージの維持と普及に努めています。

大和肉鶏は、その歴史と伝統、そして生産者の努力によって、奈良県を代表するブランド地鶏として、その地位を確立しています。

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