大字報

大字報（だいじほう）

大字報とは、中華人民共和国において用いられた、大きく書かれた文字で意見や情報を掲示する壁新聞形式の媒体です。これは単なる掲示物にとどまらず、民衆への情報伝達、意見表明、そして特に政治的な宣伝や批判のための強力な道具として機能しました。

毛沢東は、大字報を「非常に効果のある新式の武器」と評価し、広範な民衆が参加する場でこれを活用することの重要性を強調しました。この考えに基づき、大字報は1957年の反右派闘争以降にその影響力を拡大させ、特に1966年から始まる文化大革命（文革）の期間において、社会の様々な場面で定着し、極めて活発に用いられるようになりました。

文革の始まりにおける大字報の役割は特筆されます。1966年5月、北京大学の講師であった聶元梓（じょうげんし）らは、大学の党委員会指導部を公然と批判する内容の大字報を学内に貼り出しました。この行動を毛沢東が「マルクス・レーニン主義の大字報」として高く評価し、その内容を全国に広めるよう指示したことで、大字報は文革を推進する「造反派」（革命を名目に既存権威に反抗するグループ）にとっての情報伝達、意思表示、そして宣伝活動における主要な手段として、一気に社会に広まりました。

さらに、1966年8月5日、毛沢東自身が発表した「司令部を砲撃せよ――私の一張大字報（炮打司令部--我的一張大字報）」と題された論文は、文字通りの壁新聞として物理的に掲示されたものではありませんでしたが、そのタイトルに「大字報」という言葉を用いることで、これを自らの政治的メッセージ、特に党内にいる「ブルジョア階級の司令部」と批判する相手（暗に劉少奇らを指す）に対する「砲撃」であると位置づけました。この論文は、当時開催中であった党の重要会議である第8期中央委員会第11回全体会議の出席者にも配布され、文化大革命を本格的に発動させるための重要な触媒となりました。

文革期間中、大字報は「大鳴」（自由に意見を述べること）、「大放」（大胆に意見を発表すること）、「大弁論」（公開で議論すること）と並んで、「四大（中国語版）（民主）」と呼ばれる民衆の権利や表現形式の一つとされました。これらの「四大」は、社会主義革命の「新しい形式」として、人民大衆が国家や中国共産党の指導を強固にするために運用することを保障されるべきものと見なされました。

1975年1月に採択された中華人民共和国憲法の第13条では、この「四大」が「人民大衆が創造した社会主義革命の新しい形式である」と明確に規定され、「国家に対する中国共産党の指導をうち固め、プロレタリア階級独裁をうち固める」目的のために、国家が人民大衆によるこの形式の運用を保障するとされました。さらに、1978年に改正された憲法でも、大字報を含む「四大」は第45条において「公民の基本的権利」として位置づけられました。

しかし、文革終結後の1978年から1979年にかけて起きた「北京の春」と呼ばれる民主化運動の中で、北京の西単（せいたん）にあった「民主の壁」に貼られた大字報が、次第に政府や党に対する直接的かつ過激な批判を展開するようになりました。これに対し、当局は警戒を強め、規制に乗り出します。

まず、1979年3月29日、北京市党委員会は、集会やデモ、そして大字報の掲示に関する規制通告を発表し、プロレタリア独裁、社会主義、中国共産党による指導、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想といった体制の根本原則に反対する内容の大字報の張り出しや出版物の出版を禁止しました。次いで、北京市政府は同年12月16日、大字報を貼ることができる場所を、勤務先や学校といった所属組織の敷地内を除けば、月壇公園内の一角だけに限定するという措置を取りました。これは事実上、公の場での大字報の掲示を厳しく制限し、その自由な表現手段としての機能を停止させるものでした。

こうした流れを受け、1980年8月30日に開催された第5期全国人民代表大会第3回会議において、憲法から「四大民主」が公民権の規定として削除されました。これにより、大字報は中国の公的な政治・社会活動から姿を消し、歴史的な遺物となりました。

なお、類似の「壁新聞」形式は他の国でも見られ、例えば韓国においても1980年代の第五共和国時代、民主化運動の文脈で主に大学構内に貼られた壁新聞が「대자보（デジャボ）」と呼ばれていました。

総じて、大字報は毛沢東指導下の中国において、プロパガンダ、大衆動員、権力闘争、そして一時的ながら民衆の意見表明の場として多様な役割を果たしました。しかし、その自由な性質が体制にとって制御不能となると見なされるや、法的な保障も撤回され、急速に消滅の道をたどった媒体であると言えます。

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