大学よいとこ

大学よいとこ

『大学よいとこ』（だいがくよいとこ）は、1936年に公開された日本の映画作品で、小津安二郎が監督を務めました。この作品は、当時の学生喜劇にはあまり見られなかったシリアスなテーマが全編にわたって表現されている青春ドラマです。

作品の概要

この映画は、単なる学生の楽しみや軽妙なジョークにとどまらず、若者たちが抱える悩みや葛藤に焦点を当てています。タイトル自体にはアイロニックな意味が込められており、登場人物たちも明るい雰囲気とは裏腹に、どこか暗い影を抱えています。主人公の二人、藤木と天野は冗談を並べることもなく、どこか沈んだ表情を浮かべながら物語が進行します。

あらすじ

物語は下宿屋が舞台となっています。そこには、さまざまな学生たちが寝転がりながら必死に勉強に励む姿が描かれます。一方で、卒業生たちは職を求めて奔走しています。藤木と天野は、過酷な軍事教練に耐えることになり、体力を失った野球部の青木は一日中部屋で横になっています。そして、だらだらと過ごす西田は金を借りることに没頭しています。

そんな中、天野は退学の決断を下し、故郷に戻ることになります。藤木は、送別会を開くために妻のへそくりを持ち出しますが、緊張と不安が入り交じった複雑な気持ちを抱えながら、仲間たちと最後のひとときを過ごすことになります。

翌朝、実際の学生生活に戻った藤木は、再び軍事教練で行進する日常に戻りますが、彼の心には友との別れの思いが深く残ります。

スタッフとキャスト

この作品の製作を手掛けたのは松竹蒲田撮影所で、白黒の標準サイズ（1.37:1）のサウンド版で制作されました。監督は小津安二郎で、脚本は荒田正男が担当しました。また、原案にはゼームス槇が名を連ねています。

キャストには、藤木役の近衛敏明、天野役の笠智衆、西田役の小林十九二といった面々が出演しています。さらに、藤木の妻千代子を演じる高杉早苗や、下宿屋の亭主役の青野清など、多彩なキャラクターが登場します。

作品の特徴

『大学よいとこ』は、ただ青春を謳歌するだけではなく、学生たちの真摯な姿勢や人間関係、社会への葛藤を描写している点に大きな意味があります。小津安二郎の独特の視点が光る作品であり、青春の一コマをリアルに切り取った内容は、今もなお多くの人々に親しまれています。

初回の興行は1936年3月19日に浅草帝国館で行われました。この作品は、同時上映として『初姿出世街道』が併映されました。後に、フィルムアート社から出版されたムック『小津安二郎を読む』などで、その重要性が再評価されています。

この映画は現在、脚本のみが現存しており、プリントは失われていますが、映画史の中で忘れられない作品の一つとして語り継がれています。

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