大学設置基準の大綱化

「大学設置基準の大綱化」とは、1991年（平成3年）に実施された日本の大学に関する重要な制度改革を指します。この改革は、当時の文部省（現在の文部科学省）が大学に対して行っていた様々な細則による規制を緩和し、各大学がより自由で多様な教育・研究活動を行えるようにすることを目的としていました。

改革以前の状況

大綱化以前の大学設置基準は、大学の設置認可にあたって、学部名称や教育課程の構成について詳細な規定を設けていました。

学部名称: 学部の種類は、文学、法学、経済学など、旧制大学から引き継がれた伝統的な名称が基本とされ、それ以外の名称を用いる場合には、個別具体的な内容が適切であると認められる必要がありました。
教育課程: カリキュラムは、一般教育、外国語、保健体育、専門教育という明確な科目区分が定められ、それぞれに必要な単位数（一般教育36単位、外国語8単位、保健体育4単位、専門教育76単位）が固定されていました。卒業に必要な合計単位数は124単位でした。
学士の名称: 卒業時に授与される学士の名称も、学部名に応じて文学士や理学士など29種類に限定されており、専門分野の多様化に対応できない状況でした。

改革の背景

戦後の大学進学率向上と高等教育機関の拡大が進むにつれて、社会の構造やニーズは大きく変化しました。このような中で、従来の画一的な大学制度では、多様化する社会の要請に応えきれないという課題が認識されるようになりました。この状況を受け、1984年（昭和59年）に設けられた臨時教育審議会は、1986年（昭和61年）の第二次答申において、大学の個性化や多様化を促進すべきであると提言しました。

この提言に基づき、大学審議会での検討が進められ、1989年（平成元年）の大学院設置基準改正や、1991年（平成3年）の学校教育法改正といった関連法規の改正が行われました。そして、1991年に実施された大学設置基準および学位規則の改正が、大学に対する規制を大幅に緩める「大綱化」の中心となりました。

大綱化による主な変更点

大学設置基準の大綱化により、主に以下の点が大きく変更されました。

学部名称の自由化: 学部名称に関する規定は、「学部は、専攻分野の教育研究の必要に応じて組織されるもの」と改められ、具体的な名称例示は廃止されました。これにより、各大学は自らの教育・研究内容に合わせて、情報系、環境系、国際系、地域系といった新しい名称や、それらを組み合わせた学際的な名称の学部を自由に設置・改組できるようになりました。その結果、1979年には69種類だった学部名称の種類は、現在では500種類以上に増加しています。
教育課程編成の自由化: カリキュラムにおける科目区分（一般教育、外国語など）とその単位数の固定が廃止されました。卒業に必要な総単位数124単位自体は維持されましたが、科目区分や各区分に割り当てる単位数の設定は、各大学が独自の教育理念や方針に基づいて自由に設計できるようになりました。
学士名称の柔軟化と学位の位置付け: 学士は学校教育法等の改正により、正式な「学位」の一つとして位置づけられました。名称の表記も、「文学士」から「学士（文学）」のように、学位であることを明記する形式に変更されました。さらに、括弧内の専門分野を示す名称についても、大学がカリキュラムの内容に応じて自由に設定することが認められました。これに伴い、授与される学位の名称も多様化し、現在では700種類を超える種類が存在します。

その他の影響

科目区分廃止に伴い、多くの大学で一般教育科目の内容が見直され、削減が進みました。これを受け、一般教育などを担当していた「教養部」の改組や廃止が全国的に進みました。特に国立大学では、旧制高等学校等をルーツに持つ教養部のほとんどが廃止されることとなりました（東京医科歯科大学を除く）。

大綱化は、これ以外にも、授業評価制度や大学自身の自己評価・外部評価システムの導入など、その後の日本の大学における様々な改革の契機となりました。1991年以降の日本の大学が経験したこの大きな変革期は、「大綱化以降」という言葉で語られることが少なくありません。大学設置基準の大綱化は、日本の高等教育システムが、旧来の画一的な体制から脱却し、多様性と独自性を追求する方向へと転換する上で、極めて重要なターニングポイントだったと言えるでしょう。

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