大庭 (藤沢市)

大庭（おおば）

概要

神奈川県藤沢市の西部に位置する大字です。広大な相模野台地の南端に広がり、東側には清流、引地川が流れ、豊かな自然景観を形成しています。「大庭」という地名の由来は、かつてこの地域が広々とした平坦な土地であったことにちなむと伝えられています。歴史的に見ても古くから開けた土地であり、現在は大規模な住宅地「湘南ライフタウン」を擁し、自然と歴史、そして現代的な街並みが調和した地域となっています。

歴史

この地域には、太古の時代から人々の営みがあったことを示す証拠が数多く発見されています。築山からは縄文時代前期のものと見られる土器片が出土しており、弥生時代から奈良時代にかけても集落が営まれていたことが、発掘調査によって確認されています。

平安時代には、相模国高座郡を構成する「十四郷」の一つである「大庭郷」の中心地であったと考えられています。さらに、平安時代末期から室町時代にかけては、権威ある寺社や貴族などの所有する広大な荘園である「大庭御厨」の中心地として、地域経済や文化の中心地として栄えました。

江戸時代に入ると「大庭村」となり、その支配体制は時代の流れとともに変化しました。寛永10年（1633年）には4氏の旗本による分領地でしたが、元禄10年（1697年）には幕府直轄領と4氏の旗本による分領地となり、幕末期には幕府領と5氏の旗本による複雑な分領支配が行われていました。村内には折戸、稲荷、台、谷、入、小糸の六つの集落があり、中でも折戸と稲荷は一つの村として扱われることが多かったようです。後に稲荷は独立した村となりました。この時代には、隣接する羽鳥村との間で村境を巡る争いが、また鵠沼村との間では水利権を巡る争論が発生した記録が残されています。宝永4年（1707年）の富士山噴火（宝永大噴火）の際には、この地域も大きな被害を受け、村では生活に困窮し、幕府に食料の貸付を願い出る事態となりました。当時の主要な農産物としては、米や木綿、麦、大豆、小豆などが挙げられます。

近代に入り、明治維新を経て行政区分が再編される中で、大庭村もその所属を変えていきます。慶応4年/明治元年（1868年）には神奈川府（後に神奈川県と改称）に所属し、明治4年（1871年）には一時的に足柄県に移管されましたが、すぐに神奈川県に戻されました。明治10年（1877年）には近代教育機関として大庭学校が開設され、明治18年（1885年）には羽鳥学校と合併して大羽学校と改称されました。明治22年（1889年）の町村制施行により、周辺の村と合併して明治村の一部（大字大庭）となり、さらに明治41年（1908年）には明治村、藤沢大坂町、鵠沼村が合併して藤沢町の一部となりました。昭和15年（1940年）には藤沢町が市制を施行し、大字大庭は藤沢市の一部として現在に至ります。

戦後、特に高度経済成長期を経て、地域の様子は大きく変化しました。昭和46年（1971年）からは藤沢市による都市計画事業として、現在の湘南ライフタウン地区における大規模な住宅地開発が開始されました。これにより、広大な台地の上に新しい街並みが形成され、多くの人々が移り住むこととなります。交通インフラの整備も進み、特に大庭トンネルは、昭和57年（1982年）の下り線開通、昭和61年（1986年）の上り線開通により、地域と藤沢駅、辻堂駅方面を結ぶ重要な幹線道路の一部となりました。

現代の様子

現在の地理的な特徴としては、地域の中部にはかつてこの地にあった大庭城の跡地を整備した大庭城址公園があり、市民の憩いの場となっています。南部には熊野神社があり、これはかつて相模国の式内社であった「大庭神社」に比定される有力な候補の一つとされています。また、地域の中西部には計画的に開発された湘南ライフタウンが広がり、多くの住宅とともに、商業施設、公共施設、学校などが集積しています。

経済活動としては、湘南ライフタウンを中心に多様な店舗が進出しており、飲食店やコンビニエンスストアなどが数多く営業しています。また、歴史的に農業が営まれてきた地域であり、現在も一部で農業が行われています。近年公表されている経済センサス調査などのデータからは、地域の事業所数や従業員数などが確認でき、地域経済の動向を把握することができます。地域における住宅地の地価は、令和5年（2023年）の公示地価によれば、特定の地点で1平方メートルあたり14万9000円となっています。

交通アクセスについては、地域内に鉄道駅はありませんが、神奈川中央交通によるバス路線網が発達しており、藤沢駅、辻堂駅、湘南台駅、善行駅など、周辺の主要な駅へ向かう多くの系統が運行されています。また、慶応大学や綾瀬車庫方面への路線も利用可能です。道路網としては、神奈川県道43号藤沢厚木線が地域を南北に縦断し、神奈川県道47号藤沢平塚線が南部を東西に結び、地域の主要な交通路となっています。

地域内には、教育機関として神奈川県立藤沢西高等学校、藤沢市立大庭中学校、藤沢市立大庭小学校、藤沢市立小糸小学校、藤沢市立駒寄小学校などが設置されています。その他にも、藤沢市保健医療センター、湘南大庭市民図書館、藤沢大庭郵便局、藤沢湘南ライフタウン郵便局といった公共施設、芙蓉カントリークラブや湘南ライフタウンショッピングセンターなどの商業・レクリエーション施設、そして歴史的な大庭城址公園や自然豊かな引地川親水公園、広大な大庭台墓園など、多様な施設が点在しています。交通の要衝として機能する大庭隧道（大庭トンネル）も重要な施設です。

この地域は、藤沢町の町長や神奈川県農工銀行の取締役などを務めた金子角之助や、その長男で藤沢市長を務めた金子小一郎といった、地域の発展に尽力した著名な政治家を輩出している土地でもあります。

郵便に関する情報として、郵便番号は251-0861であり、集配業務は藤沢郵便局が担当しています。大庭という地名は他の地域にも存在するため、区別の際には注意が必要です。

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