大日本軌道

大日本軌道（だいにっぽんきどう）

大日本軌道は、「大軌（だいき）」とも略された日本の軽便鉄道会社です。甲州出身の実業家である雨宮敬次郎によって設立され、彼の経営のもと事業を展開しました。英文社名は Dai-Nippon Light Railway Co., Ltd. と称しました。

設立の背景と事業展開

大日本軌道は、1906年（明治39年）に公布された鉄道国有法が契機となって誕生しました。当時、雨宮敬次郎は鉄道事業に積極的に投資していましたが、この法律により国家が幹線鉄道網を掌握する方針が明確になったことを受け、彼は今後の鉄道事業の中心が地方交通に移ると予測しました。この見通しに基づき、地方における軌道事業を推進するため、1908年（明治41年）7月28日に大日本軌道が設立されました。

設立に際しては、既存の8つの事業者、すなわち熊本軽便鉄道、山口軌道、広島軌道、伊勢軽便鉄道、浜松鉄道、静岡鉄道、熱海鉄道、信達軌道を合併するという手法が取られました。これにより、設立当初から各地に拠点を持ち、広範な事業基盤を築きました。

1911年（明治44年）1月20日に設立者の雨宮敬次郎が死去すると、各支社の運営はより独自色を強めることになります。しかし、同時期の1910年（明治43年）8月に軽便鉄道法が施行され、簡易な手続きで軌道建設が可能になったこともあり、軽便鉄道建設は全国的な流行となっていました。大日本軌道はこの波に乗り、全国各地の中小都市近郊で積極的に路線網を拡大していきます。路線の建設にあたっては、地元小資本家からも出資を募るなど、地域との連携も図られました。

鉄工部と路線の変遷

大日本軌道は単なる鉄道事業者にとどまらず、独自の鉄工部を有していました。この鉄工部では主に小型蒸気機関車の製造を手掛けていました。1911年（明治44年）7月には雨宮鉄工場を合併し、その生産体制を強化しました。その後、1919年（大正8年）7月にはこの鉄工部が独立し、「雨宮製作所」として分社化されました。雨宮製作所は、その後も日本各地の軽便鉄道向けに車両を供給する重要なメーカーとなります。

全国に展開した大日本軌道の路線は、その後の時代の変遷とともに多くの部分が姿を消しました。過半数の路線は廃止される運命をたどりました。しかし、すべての路線が消滅したわけではありません。例えば、静岡支社、浜松支社、広島支社が保有していた一部の路線は、改軌や電化といった改良を経て、現在もなお鉄道・軌道網の一部として営業を続けています。

沿革の主な出来事

• - 1908年（明治41年）7月28日：熊本軽便鉄道、山口軌道、広島軌道、伊勢軽便鉄道、浜松鉄道、静岡鉄道、熱海鉄道、信達軌道の8社を合併し、大日本軌道が設立される。
• - 1911年（明治44年）1月20日：設立者である雨宮敬次郎が死去。
• - 1911年（明治44年）7月：雨宮鉄工場を合併し、社内に鉄工部を設置。
• - 1913年（大正2年）2月20日：山口支社が保有していた路線が廃止される（同年7月には特許も失効）。
• - 1916年（大正5年）3月24日：熊本支社が保有していた路線の一部（熊本市西唐人町-鹿本郡山鹿町間）が鹿本軌道へ譲渡される。
• - 1918年（大正7年）1月8日：福島支社が保有していた路線が信達軌道へ譲渡される。
• - 1919年（大正8年）3月11日：広島支社が保有していた路線が可部軌道へ譲渡される。
• - 1919年（大正8年）6月1日：静岡支社が保有していた路線が駿遠電気へ譲渡される。
• - 1919年（大正8年）7月：鉄工部が独立し、雨宮製作所として分社化される。
• - 1919年（大正8年）10月12日：浜松支社が保有していた路線が遠州軌道へ譲渡される。
• - 1920年（大正9年）2月17日：伊勢支社が保有していた路線が中勢鉄道へ譲渡される。
• - 1920年（大正9年）7月1日：小田原支社が保有していた路線が熱海軌道組合へ譲渡される。同日をもって、大日本軌道という会社は解散した。
• - 1921年（大正10年）1月20日：熊本支社が保有していた路線の軌道特許が失効する。

このように、大日本軌道は日本の鉄道史において、鉄道国有化後の地方交通の担い手として、また軽便鉄道ブームを全国に広げた企業として重要な役割を果たしました。その事業は各地の鉄軌道会社の礎となり、一部は現代にもつながっています。

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