大橋宗桂 (初代)

初代大橋宗桂：日本将棋史に輝く一世名人

初代大橋宗桂は、日本将棋史において非常に重要な人物です。弘治元年（1555年）に生まれ、寛永11年（1634年）に没した彼は、一世名人として名高く、その生涯は数々の謎と伝説に彩られています。

謎に包まれた出自とキャリア

宗桂の出自については諸説あります。京都下京の裕福な町人・宗也の子として生まれたとされ、幼名は龍政、その後宗金、宗慶と名乗り、最終的に宗桂を名乗るようになりました。「宗桂」の名は、織田信長から桂馬の使い方が巧いと褒められたことに由来するという説もありますが、その真偽は定かではありません。

彼は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕えたとされていますが、近年の研究では信長、秀吉への仕えは虚偽である可能性も指摘されています。秀吉からは「棋所の御証文」と二十石十人扶持を与えられ、関白豊臣秀次からも「御城将棋」に召し出されるなど、高い棋力を持ち、権力者からも重んじられたことが伺えます。

囲碁の名人、本因坊算砂との対局も有名です。当時の棋士は将棋と囲碁の両方をこなすのが一般的で、宗桂も囲碁を嗜んだ可能性があります。彼と算砂の対局記録は現存しており、宗桂の圧倒的な勝利が記録されています。しかし、算砂の棋力も非常に高かったことが近年の研究で示唆されており、二人の棋力の差については未だ議論の余地があります。

徳川家康は碁・将棋を愛好し、慶長17年（1612年）に将棋所を独立させました。宗桂が初代将棋所となったとされていますが、これも史実ではないとする見解もあります。家康からは五十石五人扶持を与えられ、「将棋の指南役」として仕えたと伝えられています。

宗桂が僧侶であったとする説もありましたが、近年の研究では町人出身であったとされています。大橋家が御用達町人の身分であったとする説もあります。また、彼の家系については、後世に創作された可能性が高い系図も存在します。

将棋史に残る功績：詰将棋集『象戯造物』

宗桂は、現存する最古の詰将棋集『象戯造物』の作者としても知られています。慶長年間の発行とされ、元和2年（1616年）には幕府に献上されました。この献上が、後の名人による幕府への作品献上の慣習の始まりになったと言われています。

彼の詰将棋は、実戦的で力強い作風が特徴です。十数手詰めで、実戦的な手筋が多く用いられており、江戸中期以降に流行した華麗な手筋とは趣が異なります。特に有名なのは「香歩問題」と呼ばれる15手詰めで、一見簡単に解けるように見えますが、実は奥深い妙手が隠されています。

さらに、慶長7年（1602年）には、言経卿を通して天皇に詰将棋集を献上しようとした記録も残されていますが、その詰将棋集は現存していません。

最古の棋譜と、謎の残る生涯

現存する最古の棋譜は、慶長12年（1607年）に指された宗桂と算砂の対局です。133手で宗桂が勝利しました。現在分かっている宗桂の対局棋譜は、全て算砂との対局のみで、その成績は7勝1敗です。

初代大橋宗桂の生涯は、数々の謎と輝かしい功績に満ちています。彼の存在は、日本の将棋の歴史を語る上で欠かせない存在であり、これからも多くの研究者によってその生涯が解き明かされていくことでしょう。

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